第29話 おせち
*
年の瀬も迫ってきた。そろそろりこを迎える準備を始めたほうがいい。温泉は完成したし、食事とかはどうしようか。良太朗は料理に関してほのかに相談する。
「年末年始にりこが来るって言ってたの、料理どうしようか。お正月といえば、おせちにお雑煮だけど……」
「おせち、食べたことない」
「ん? ほのかはおせち料理食べたこと無いの?」
「ん」
「毎年どんな感じだったの?」
「んー。最近はデリバリー。昔は家族でレストラン」
「そうかー。なら、おせちとかお雑煮とか食べてみる?」
「ん!」
「それなら、餅は機械じゃないほうがいいかもなあ。よし、日程を決めよう」
良太朗は通話アプリでりこに連絡を取る。一〇コール以内に出なければ忙しいと判断して切ろうと思っていたら、四回目のコールでりこが出た。
「あ、りこ。年末に来るって言ってたのは、何日頃にくる予定で考えてる?」
『えっと三十日の予定です。年明けは五日くらいまでお世話になりたいんですけど、大丈夫ですか?』
「大丈夫だよ。それよりも、りこはお正月家族との予定とか大丈夫なの?」
『お正月は近所に住んでるおばあちゃんの家に行く位なので、先に顔を出しておけば大丈夫です』
「了解。そういえば、ほのかが正月らしいことあまりしたこと無いらしいんだよ。それで、今年は機械じゃなくて、杵と臼で餅つきをやろうと思うんだけど。りこはやったことある?」
『やったことないです! ぜひ一緒にやってみたいです。もちろん動画も撮ります! コラボの一環ですね』
「そういうと思ったよ。じゃあ餅つきは大晦日の昼にやるように準備しとく。あ、食べ物のアレルギーとかはない?」
『大丈夫です。なんでも食べられますよ! 餅つき、今から楽しみです!』
「じゃあ、準備して待ってるよ」
通話を切った良太朗は、正月に向けておせち料理の予定を考える。ネットでおせち料理に入っているもののレシピを調べていく。
「良太朗。見て、数の子味付きのがあるみたい」
「へえ、そうなんだ。こだわらないから、出来合いがあるのならそういうのでも良いかな? あ、栗きんとんはココたちにドングリ集めてもらってあれで作ろう。きっと美味しいよ」
「異世界栗きんとん」
「それと、お雑煮はうちではいつも肉吸いお雑煮なんだけど、大丈夫?」
「肉吸いってなに?」
「んと、お肉が入ってるお吸い物だよ。これも前に貰った異世界イノシシ肉が、冷凍庫にあるからそれを使うつもり」
「おお、美味しそう」
ほのかとおせち料理について話していると、昼寝から起きたのかリュカがやってきた。最近は特に食っちゃ寝ばかりしていて、駄ドラゴンへの道を着実に進んでいる。
「なんのはなししてるの? 美味しそうなはなし?」
「まあリュカは、確実におせち料理は食べたことないよな」
「おせち料理? おせちってどんな食材?」
「いや、おせちっていうのは食材じゃなくて、正月に食べる特別な料理の事だよ」
「ん! ラーメンとかと一緒」
一応ラーメンも料理の種類を表してるし、間違ってはいないのか? なんだか釈然としないけど……。
「なるほど。あたしも食べる♡」
「今すぐ作るわけじゃないからね。楽しみにしてて」
*
師走の忙しさのせいか、あっという間にりこが来る三十日になった。できれば今日餅つきをやりたかったけど、半日かけて移動してきたりこに、餅つきをやれというのも酷だろう。
「じゃあ、そろそろりこを迎えに行ってくるよ」
「ん! 海老の旨煮。
「おねがいします。火には気をつけてね」
「ん!」
ほのかは、最近はレシピサイトを見ながら、色々と作れるようになっている。かなりの進化だ。勉強も頑張っている。ただ乾燥する時期だし、火の取り扱いだけが少し心配だ。
「心配しなくてもだいじょうぶ♡ あたしが味見しといてあげるから」
「心置きなく行ってくるが良い。鰤と海老の味見は任せるがよい」
「いや、多めに材料用意してあるから、味見はいいいけど。味見しても火の用心にはならないでしょ……」
「いいの? うれしい♡」
「おお、太っ腹じゃ」
「ほのかがいいよって言った分だけね。ほのか、あげすぎないでね」
「ん! 大丈夫」
良太朗はワゴン車を運転して、りこを迎えに出かける。駅にたどり着いたのは、電車が到着する五分ほど前だった。良太朗はワゴン車を停めて、ゆっくりと駅へと向かう。駅舎は古いし、売店なんてものは無くて自動販売機のみだが、かろうじて無人駅ではない。
良太朗は入場券を買って、単線のホームで電車の到着を待つ。しばらくすると、三両編成の小さな電車がホームに滑り込んできた。
「良太朗さん! お久しぶりです。迎えに来てくれたんですね」
「遠いところからいらっしゃい。荷物は預かるよ」
「はい。よろしくお願いします」
良太朗は、りこの荷物をワゴン車の荷室に置く。前回の宣言通りお土産が入った大量の紙袋を持ってきていた。
「ほんとにこんなに沢山のお土産を買ってきたんだね」
「もちろんです。リュカちゃんと約束しましたし」
「喜ぶと思うよ」
良太朗とりこが帰ってくると、皿の上に乗った海老の旨煮を挟んで、リュカとメノウが対峙していた。
「なにやってるの?」
「最後の一尾をどっちが食べるか勝負」
「なるほど」
「この海老は渡せない♡」
「それはこちらの台詞じゃ。覚悟するがよい」
お互い今にも飛びかかる勢いで、海老を争っている。良太朗はため息をひとつ吐いて皿の上に乗った海老をつまんで食べる。
「ひどい!」
「最後の海老がっ、不敬じゃぞ」
「こんな海老があるから争いが終わらないんだよ。原因を取り除くのが一番」
「ん! 良太朗。味どう?」
「めっちゃ美味しいよ。ほのかの料理の腕は本当に上がってるね」
「え? この海老ほのかちゃんが料理したの? いつの間にそんなテクニックを?」
「フフフ。日進月歩」
「うわー……。料理だとほのかちゃんに負けてるかもです……」
「まだ他の料理もしないといけないんだよ。といっても材料切ったり、出来合いのものを、重箱に詰めたりするのがメインだけど。ほのか引き続き手伝いお願い」
「ん」
「私も手伝います」
「来たばかりで疲れてるでしょ? 休んでていいんだよ」
「いえ、座ってばかりだったので、体を動かしたいんです」
「じゃあ、お願いしようかな」
良太朗はまだ手を付けてない料理を作っていく。煮しめに紅白
ほのかとりこは、仲良く二人で重箱に料理を詰めていく。鰤の照り焼きに、海老の旨煮、黒豆に伊達巻などなど。殆どが出来合いの真空パック商品だけど、それでもかなり立派なおせちが出来上がっていっている。
「無理に全部詰めなくてもいいからね。食べて減った分を補充すればいいだけだから」
「ん」
「わかりました」
良太朗たち三人でワイワイとおせちを作って、ついに完成した。本来なら、重箱ごと冷蔵庫にしまっておいたほうが良いのかもしれない。でも、土間の台所は水に氷が張るくらい冷えるので、テーブルの上で大丈夫だろう。
「おつかれさま、明日は餅つきだね。ココたちにも食べさせてあげたいから、鳥居の向こうでやるよ」
「ん。楽しみ!」
「私も餅つきは初めてなので楽しみです」
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