第23話 鑑賞会
*
良太朗は居間の掘りごたつに入って、ネット配信でアニメを見ていた。ほのかとリュカ、そしてメノウもいる。リュカもほのかも掘りごたつに満足しているのだが、メノウだけは入れないので機嫌が悪い。
「掘りごたつはダメなのじゃ」
「通販で猫用の小さいこたつかってあげるから」
「本当か?」
「うん。収益が入るのはまだ先だけど、メノウの動画も人気コンテンツだからね。メノウが好きなのを選んでいいよ」
「どれどれ、見せてみるのじゃ」
「ちょっとまってね」
良太朗はタブレット端末を使い、大手通販サイトを開く。検索窓に「猫 こたつ」と打ち込むと結果が一気に表示される。検索結果なんと三八三件。関係ない商品もまざっているとはいえ、猫用こたつがこんなに存在するとは思わなかった。良太朗はタブレットをメノウの前に置いてやる。
メノウは置かれたタブレットを、肉球で器用に操作して商品を確認していく。良太朗はタッチパネルが、肉球でも反応するということに関心してしまう。
メノウは次から次へとカートに入れていく。一通りチェック終わったところでカート内で、どれが良さそうか悩み始めた。カートの中の商品をみると、ぱっとみてメノウの好みがわかる。どうやらメノウは黄色が好きなようだ。
「何個買って良いのじゃ?」
「何個って……。一個で良いんじゃないの?」
「最低でも居間用と、良太朗の寝室用の二個は必要じゃ。それに、このベッドは縁側に置いてほしいのじゃ」
「じゃあ、今言った分は買ってもいいよ」
正直なところメノウの踊る猫シリーズの動画は、かなり好評で人気がある。チャンネルの管理画面で確認できる予想収益はかなりのものだ。それに登録者数も五〇〇〇人を超えた。猫缶に毎日のちゅ〜◯、要求されてるこたつを全て買っても、余裕でお釣りがくる。
良太朗が、必死にこたつを選ぶメノウをチラ見しながら、アニメを見ているとスマートフォンに着信があった。りこからだ。良太朗はスピーカーにして応答する。
『良太朗さん? なんですかアレ?』
「りこ突然どうしたの?」
『良太朗さんのチャンネルですよ! 露天風呂作ってたんじゃないんですか? なのに急に温泉にアップグレードしてるし、犬の人たちは居るし、家ができたり、田畑が出来たりしてるじゃないですか。ちょっと動画を追いかけてない間に、なにがあったんですか』
「りこ、見てなかった?」
『う……。卒業制作が追い込みに入ってて、配信ペースが半分になるくらい時間なかったの。ほのかちゃんごめんなさい』
「ん。無罪」
『そうじゃなくて動画ですよ! なんで露天風呂が村になってるんですか!』
「色々あったから説明すると長くなりそうなんだけど……」
『じゃあ、同時視聴しませんか? 動画を見ながら解説してください』
「はぁ、わかったよ。じゃあ、どの動画からにする?」
良太朗はアニメをやめて、りこが指定した動画をタイミングを合わせて再生し始める。動画の中で良太朗が木を切り倒していくシーンになったところで、りこが言った。
『まず、これが気になります。なんですかこれ? いくら異世界でもこんなの無理じゃないですか?』
「あー……。これはリュカに貰った神剣で斬ってるんだよ。ほら、りこも見たでしょ?」
『あれですか? 良太朗さん以外には持ち上げることも出来なかった剣?』
「ん! あれ」
『木も切れるとか言ってましたけど、本当だったんですね。てっきり盛ってるのかと思ってました』
「うん♡ 木だけじゃなくて岩だって簡単に切れるんだよ♡」
「え? じゃあ、岩風呂作る時に、上手く嵌まる岩が無くて苦労したのって……。合うように岩切っちゃえば簡単だったってこと?」
「うん♡ なんで切らないんだろうっておもってた♡」
「思ってたじゃなくて、ちゃんと言ってよ」
「ん! パズル大変だった」
『何度も何度もパズルしてるシーン面白かったですから、結果オーライってやつですよ』
「ええ……。本当に大変だったんだよ」
次にりこが気になったのは、ココたちと畑を作っているシーンだった。
『この奥に見切れてる3Dプリントハウスみたいなの、いつのまに出来たんですか? 作るシーン無かったですよね?』
「ああ、これね。土魔法で作ったんだけど、なんかあまりに現実離れしてて、気持ち悪い感じだったったからカットしたんだよ」
「ん! ある意味ホラー」
『なんですかそれ。すごく興味があります! あとで動画送ってくださいよ』
「パソコンには残ってると思うから、見たいなら送るよ」
『それは楽しみです。次はですね。この畑おかしくないですか? ココさんたちとみんなで耕してるのは分かりますよ? それで次のカットは、みんなで収穫してるって意味がわからないです』
「それもリュカから貰った効果で、植物の成長を促進させられるんだよ」
『なんかもう、良太朗さんって、異世界転生モノの主人公くらいチートになってますね』
「ううん。その野菜は私が育てた」
『ほのかちゃんもですか……。ヤバいですね。私だけ一般人です……』
「そのうち気が向けばリュカから貰えるかも?」
『そうなんですか。年末に行くときには、リュカちゃんに美味しいおみやげをいっぱい用意しておきますね』
「どんなの? 楽しみすぎる♡」
『ふっふっふ。期待してていいですよ。首都圏で手に入らないものはないですから』
そのあと、ソバーカ族との出会いなどについて、りこに説明していく。そして動画鑑賞は終わりをむかえた。
『じゃあ、年末に行くの楽しみにしててくださいね。湯浴み着も完成してるので、後で写真送りますね。コラボ楽しみです』
「おお。楽しみ!」
「りこも忙しそうだけど、あんまり無理しすぎないようにな」
『はい。ありがとうございます。いざとなったら、良太朗さんが推してたあのドリンク飲みますから』
「あんなの飲んで頑張るような環境にいちゃダメだよ」
『良太朗さんがそれをいいます?』
「ははっ。それもそうだね。とにかく身体には気をつけてね」
「はい。おやすみなさい」
ふと見るとメノウは、まだどれを選ぶか決めかねているみたいだ。タブレットの画面をせわしなくタップしながら検討を続けている。パット見だとタブレットに猫パンチを連打しているようにしか見えない。
「むう。最後の一個どっちにするか悩むのじゃ」
良太朗がタブレットを覗き込むと、猫用こたつは絞り込めていた。悩んでいるのは、猫ベッドを二種類のどちらにするかというところだ。候補の値段はどちらも一〇〇〇円程度だった。
「それくらいなら、両方買えば良いよ」
「よいのか! じゃあそれで決まりじゃ」
良太朗はメノウからタブレットを回収して、会計を済ませる。配送予定は二日後だ。やはり田舎なだけあって時間がかかる。でも、良太朗が子どもの頃に通販を使うと一週間は楽にかかっていたから、それでもかなりの進歩だ。
「きりも良いし、今日はここまでにしようか」
「ん!」
「帰るの面倒になってきた♡ ほのか泊めて♡」
「ん!」
リュカはあれほど嫌がっていたマナの乱れる感覚に、完全に慣れたらしく泊まっていく事も増えた。ちなみにほのかの部屋で二人、布団を並べて寝ている。良太朗は話の内容は知らないが、時々ふたりの笑い声か聞こえてくるので、仲良くなっているのは間違いない。
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