第24話 開拓

    *


 ──シャカラード王国


 シャラカード王国は、大陸南方にある巨大な国だ。外洋航海の重要な拠点となる港を擁している事もあって、潤沢な資金を持っている。また、その資金力を背景に強力な魔法使いを数多く抱えていて、少しでも領土を広げようとする覇権国家としても知られている。


 きらびやかなシャラカード王宮の中でも、特に豪奢ごうしゃな内装を持つ執務室に、大臣の一人が報告書を持って入ってきた。


「陛下。ご報告があります」


「どんな内容だ? つまらぬ内容なら後にせよ」


「では、神竜リュカニアの縄張りについての報告書が届いております。少し前から神竜が飛んでいる姿が頻繁に目撃されていたのですが、ここ数週間は目撃情報が減っていたのはご存知かと思います」


「それで?」


「魔力検知にすぐれた術師を何人か調査に送ってみたのです。結果、縄張りの境界線からは、神竜の気配を感じられなかったそうです。そこで考えられるのが」


「縄張りを移動させたというこか?」


「はい、まだそうと決まったわけではないのですが、その可能性が高いかと思われます」


「ふむ、つまりあの広大な領域を我が物にできるということか」


「おそらくは……。そこで念の為、腕利きの冒険者に偵察させてみようと思っているのですが」


「よろしい。ただし、冒険者にやらせるのは偵察だけだ」


「心得ておりますとも。それでは早速冒険者の手配をしてまいります」


 大臣はそう言って臣下の礼を取ると執務室から退出した。


    *


 良太朗が恩寵を使った促成栽培を何度か繰り返した事で、ココたちの食糧事情は劇的に改善された。加えて住居も確保できた。ココとこれからの村作りについて話をしていた。


「良太朗様のお陰で、私達の生活は一気に楽になりました」


 ココたちに最初に出会った時はみんな、草で編んだ原始的な衣服を着て狩猟採集生活を送っていた。それが今では激安品とはいえ普通の服を着ているし、米を食べ野菜を育てる生活を送っている。良太朗の蓄えは減ってしまったが、なんとか動画の収益で補填できるのではないかと考えている。最終的には、村で衣類などの制作まで出来るようになるのが目標だ。


「次は、お米を作るための田んぼを作ろうと思ってるんだけどどうかな?」


「えっ! お米ですか、みんな大好きなんです! ぜひ作りたいです」


「ただ、どのくらいの広さにするか……」


 良太朗は話しながら考える。お米の収量は一たん(一〇〇〇平方メートル)で、約六〇〇キログラムほど取れるが、それは地球で現代的な農業を行った場合の話だ。一人が年間に食べるお米の量が江戸時代で一石いっこく(約一五〇キログラム)だから最大撮れたとしても、一反で四人分にしかならない。ココたち全員の分となると、最低七反は必要ということになる。だけど、それだけの広さを開墾するとなると労力もとんでもなく必要になる。


「最終的にはそれなりの広さを確保するとして、やっぱり最初は恩寵で複数回の収穫するしか無いか……」


「ん! 私が育てる!」


 良太朗は最終的には二ちょう(一丁は一〇〇〇〇平方メートルで野球のグラウンドほど)の田んぼを作ることを考えて、どうレイアウトすれば良いかを考える。何も考えず適当に作ってしまうと、村が大きく育っていく過程で不都合が出てくるおそれが多い。


 現在のところは、草原に流れる小川を挟んで鳥居側に家、畑、物置、露天温泉と固まっている。将来的に小川の向こうに田んぼを集めればなんとかなりそうだ。そうなると小川の鳥居側は割と自由に使えるだろう。それに水源に近い小川だから、増水の心配もほとんどない。


「まず、小川から水を引いて用水路を作ろうと思う。それで、こちら側に田んぼを一反作ってみようか」


「はい。お手伝いします」


「ん! 手伝う。どこにつくる?」


「湯船にお湯を送るために、水車で揚水ポンプも動かしたいんだよね。だから温泉の側を通って、湯船から溢れたお湯も合流させようかと。それから田んぼや畑に使う水を取れるようにして、最終的には村の下流で小川に戻す感じかな」


「結構大変そうですね……」


「ん。かなり大変」


 ココとほのかが言う通り、良太朗の計画どおりに用水路を作ると、数百メートルの距離を工事することになる。


「畑や家作ったときみたいに、頑張って温泉のところくらいまでだけ掘って後は魔法だね。あ、最後川に接続するところも、ちょっと手で掘るのが良いかも」


「ん!」


 話はまとまった。今日はココたちソバーカの狩猟組と子供老人をのぞく一三人が手伝ってくれる事になる。全員にスコップを渡してカメラを三脚にセットすれば作業開始だ。


 用水路の幅は一メートルほど、大雑把に掘るべき場所がわかるように、前にも使ったペグと平巻テープで印をつける。


「このテープの間を掘っていく感じでお願い」


「わかりました良太朗様」


「それと掘った土は、テープの外側に積んで土手を作るようにしてもらえるかな」


「はいっ」


「じゃあはじめようか」


 良太朗は、小川の縁から二メートルほどあけて、用水路を掘り始める。良太朗はスコップを土に差し込み、体重を乗せる。ブチブチと草の音を断ち切る感触を感じながら、土に深く差し込み掘り起こす。小石が結構混ざっていて掘りづらいが、ふるいに掛けて小石を取り除かなくて良いだけ開墾作業よりは格段に楽だ。


 良太朗とソバーカたちが一丸となって掘り進めていくが、二時間近く掘ってもほんの数メートルしか掘り進めることが出来ない。本当に全てを手作業で進めたら、年単位の作業が必要になるだろう。


 良太朗の腕に疲労によって力が入らなくなってきて、そろそろ休憩しようかと思っていたところに、ちょうどタイミング良くほのかとココがやってきた。


「おにぎり」


「お茶もありますよ。良太朗様」


「そろそろ休憩にしようかと思ってたんだ。ちょうどよかったよ。おーいみんな休憩にしよう」


 良太朗の合図でソバーカの人たちも集まってくる。思い思いにグループになっておにぎりを食べ始める。ココは忙しく歩き回って、各グループにおにぎりとお茶を配っている。


 良太朗はほのかと二人でおにぎりを食べる。良太朗とほのかは、リュカの次に偉いといった感じの扱いになってしまっているのだ。できればもっと気安く付き合いたいんだけど、なかなか難しい。


「ん。これ私が作った」


「ありがとう。最初はお米をとぐのに砥石とか言ってたのに、ほんと色々出来るようになったね」


「それは言っちゃダメ。極秘の黒歴史」


「え? そう? なかなかかわいいエピソードだと思うけど」


「んぅ……。それより味どう? 美味?」


「うん。塩加減がちょうどいいよ。ほんと上手になったね」


「ん! ありがと」


 休憩がおわり、作業を開始する前に一〇メートルほど魔法で用水路を掘り進める。そしてみんなで一メートルほど掘って、また魔法で一〇メートルほど掘り進める。それを繰り返したことで夕方には温泉のところまで進めることができた。


「このやり方結構いいね。動画の編集次第でずっと手作業で掘り続けてるように見えそうじゃない?」


「ん! 革新的技術」


「でもまあ今日はつかれたしここまでかな。みなさんお疲れ様でした」


「なんのなんの、これくらい全然平気ですよ良太朗様」


「そうですそうです。また明日続きをやりましょう良太朗様」


 ソバーカたちは物置にスコップを戻すと家の方へと帰っていく。


「じゃあ、僕らも帰ろうか。リュカとメノウもお腹空かせてるだろうし」


「ん! お腹すいた」

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