第22話 良太朗、神剣を振るう!

    *


 村作りが決まった翌日。良太朗はスラリと神剣を抜き放ち、脇構えに構える。カカたちソバーカの男たちは縄を引いて、これから斬られるそれを固定する。ココたちは緊張の面持ちで、ほのかは撮り逃すまいとスマートフォンを構えている。


「じゃあ、いきます! えいっ」


 良太朗が神剣を振ると、キンッという硬質な音と、人参を切る時に似た感覚を残して刃は通り抜ける。良太朗が斬った大木は、縄に引かれて予定した方向へと倒れていく。


「すごい切れ味だな」


「良太朗。かっこいい」


「さすがは良太朗様です」


 良太朗は振り抜いた神剣をかかげて見る。傷一つなくキラリと光る刀身は、とても今一抱えほどもある大木を斬ったとは思えない。


「これはリュカに感謝しないとな。チェーンソーより楽に木が切れる!」


「えっへん! 言った通りすごい剣でしょ? 感謝してよね♡」


「そういや、ちゃんと撮れてる?」


「ん。確認する」


 良太朗は神剣を鞘に納めて、ほのかのところへと急ぐ。ほのかがスマートフォンを操作すると、画面には良太朗が剣を振るう動画が再生される。


「うーん……。やっぱりダメかあ……」


「んー。残念」


 動画の中で神剣が、大木に触れた瞬間から切断し終えるまでの間、ノイズにまみれて撮影が失敗していた。やはり神剣ともなると、半分魔法みたいなものだろうから、電子機器に影響が出てしまうのだろう。


「良太朗。遠くから撮ってみる」


「試してみようか」


 良太朗とほのかが映像を確認している間に、カカたち男衆は縄を使って大木を草原へと運んでいた。男衆が新しい木に縄をかける。そして二〇メートルほど離れたところから、ほのかが手を振って動画撮影の準備が出来たと合図を送る。みんなの準備が出来たことを確認した良太朗は、神剣を鞘から抜き放つ。


「じゃあ、次いくね! とうっ」


 先ほどと同じようなキンッという音を残して木は倒れていく。二度目なので縄で倒れる方向をコントロールするのも問題ない。完全に木が倒れて安全が確認できたところで、良太朗は剣を収める。男衆にまざり木を草原に引き出すのを手伝う。


「良太朗! ちゃんと撮れてる!」


 嬉しそうな声をあげてやってきたほのかと動画を確認する。そこには確かにノイズなどなく木を切り倒す良太朗の姿が映っていた。


「確かにばっちりだ。魔法も遠くから撮れば大丈夫かもしれないな」


「ん! 試すべき」


「試さないとね。でも、今は木を切るのが先決だ」


 同じ要領で次から次へと木を切り倒していく。神剣のおかげで、小一時間ほどで予定していた量の木材を切り出すことに成功した。もしチェーンソーでやっていたら、丸一日近くかかっていただろうし、斧なんかでやったらかなりの日数がかかったはずだ。ココたちに木材の運搬をお願いして、次の作業に取り掛かる。


「次、家作り?」


「そうなんだけど、とりあえず仮住まいを土魔法で作るかな」


「ん? 木は?」


「木は切ったばかりだと水分が多くてね。乾燥してくうちに割れたり歪んだりするから、最初にしっかり乾燥させてから使ったほうが良いんだよ。最終的には木とレンガで家を作ってもらおうと思ってるけど、木が乾くまでの間は、魔法で作った仮住まいに住んでもらおうかなと」


「なるほど」


「うん、だからまずはどのくらい離れれば魔法を撮影できるか試そうか」


「ん!」


 良太朗とほのかが協力して色々とやってみた結果、小規模な魔法なら一〇メートルほど離れていれば大丈夫で、どんなに大掛かりな魔法でも、一〇〇メートルも離れれば問題ないことが分かった。(もちろん高火力な魔法は空に向けて撃った)


「じゃあ家作るよー」


 良太朗の言葉にほのかは手を振って答える。まずは地面を平らにするための魔法を使う。基本的にはトイレと寝床だけの構造だから敷地は狭い。平らになった土地にさらに魔法を掛けて、壁や天井を作っていく。ものの五分ほどで一軒完成だ。


「どう? 上手く撮れてる?」


「一緒に確認」


 ほのかと二人で動画を確認する。土魔法でもりもりと家が出来ていく様子は面白い。だけど、問題点もあった。


「非現実感」


「それね。あまりにも異常な光景すぎる」


 土魔法で音がないせいもあって、あまりに現実離れした動画になってしまっていたのだ。さすがにこれはお蔵入りさせるしかなさそうだ。撮影はあきらめて、良太朗はのこりの七軒の仮住まいをつくっていく。


「ちゅ〜◯の時間じゃ。はようせい」


 いつの間にかやってきていたメノウの言葉で、夕食の時間になったのだとわかる。周りを見渡すとリュカもすでに鳥居のところでスタンバイしているのが見えた。


「じゃあ僕達は帰るから、みんなも適当なところで切り上げてね」


「ん! またあした」


 ココたちに挨拶をして良太朗たちは地球の家へと帰る。魔法を使っていた時はそんな風には感じなかったけど、良太朗は思った以上に疲れているのを感じた。筋肉の疲れというよりは、頭脳労働を長時間やったあとのような気だるい疲れだ。結構な規模の魔法を何度も使ったせいかもしれない。


「結構つかれたなあ。夕食は手抜きメニューでもいい?」


「え。やだ♡」


「ん。私も疲れた。美味しいのがいい」


「ちゅ〜◯はゆずれんぞ」


「んー、僕もお腹は減ってるからなあ。じゃあ頑張るか。ほのか畑にいって、長ネギを何本か取ってきてもらえる?」


「ん!」


 良太朗は冷蔵庫から、ココたちにもらったイノシシ肉の塊と卵を取り出す。それを二センチほどの厚さに切って小麦粉をはたく。卵液をつけたらパン粉をつけて、余分なパン粉をはたき落とす。たっぷりの油を火にかけ温度が上がるのを待っていると、長ネギを持ったほのかが帰ってきた。


「取ってきた」


「ありがとう」


 最近はほのかも田舎暮らしに慣れてきて、畑に植えている野菜を収穫してくるくらいは、お手のものになっている。


 良太朗は菜箸さいばしを油につけて、出てくる泡を見ながら温度を確認する。どうやら、いい感じにあったまって来たようだ。良太朗は衣をつけたイノシシ肉を油へと入れる。ジュワっという音とともに、油の中でイノシシ肉が踊り始める。


「ん! いい音」


「うん♡ 美味しそう」


「ちゅ〜◯はまだか」


「ほのか、メノウにちゅ〜◯あげて」


「ん!」


 金色に近いきつね色に揚がったところで、カツを油切りバットに上げる。油が落ちるのを待っている間に、長ネギをそぎ切りにして手鍋に入れる。かけつゆ位の濃さにしためんつゆを入れて火にかける。ここでめんつゆを使うのが、良太朗の家の味だ。煮えてきたところで溶き卵を投入する。


 一口サイズに切ったイノシシカツをのせたご飯にかけ回せば、イノシシのカツ丼の完成だ。朝に多めに作っておいて、温め直した味噌汁をつけてテーブルに並べていく。


「うまっ♡」


「ん。いつも美味しい」


「なうなうなうなうなぁん」


「異世界イノシシ肉だったから、ちょっと心配だったけど普通に美味しいね」


 美味しそうに食べるリュカとほのか。メノウは猫缶の入った食器に頭を突っ込んで、なうなうと無心に食べている。こうしていると、本当に普通の猫にしかみえない。みんなの和やかな様子に良太朗はつい頬を緩ませる。ほんのすこし前までは一人で食べていた。それに不満があったわけじゃないけど、こうやって人が増えるとより楽しく過ごすことが出来る。心のなかで感謝して良太朗は、イノシシカツ丼を食べ勧めるのだった。

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