第20話 どんぐりのようなもの
良太朗はソバーカの人たちを連れて、リュカとほのかの居る物置付近へと歩いていく。まだ恐れを感じているのか獣人たちは緊張しているようすだ。
「あの本当にリュカニア様の近くに行って大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫だよココ。そんなに心配するような事は無いから」
「はい」
ソバーカ族の全二八人の内訳はこうだ。大人が一六人、中高生位の年齢の子供が四人、小さい子供が六人、老人が二人。良太朗は振り返ってソバーカの人たちをじっくりと観察する。草で編んだ粗末な衣装もだが、痩せている人が目立つ。それに老人が二人しかいない事からも栄養状態は悪そうだ。
リュカの近くについたところで、ソバーカの人たちはひざまずいて頭を垂れる。真紅の鱗を持つ巨大なドラゴンであるリュカ向かってそうしている光景は、まるで神話の一シーンののように良太朗には思えた。
「リュカニア様、この度はこうしてご挨拶が出来ることに感謝いたします。我々ソバーカ一同、これから先リュカニア様に一層仕えさせていただきたく存じ上げます」
「うんうん。よろしくね♡」
台無しである。良太朗はげんなりした気分になる。ほのかの方を見ると、リュカたちの様子を楽しそうに親指を立てて見つめていた。
「挨拶も終わったみたいだし、あのどんぐりでもみんなで食べようか」
「ん。味が気になる」
「捧げ物を我々が食べるわけには──」
「みんなで食べたほうがおいしいよ〜♡」
リュカの一言で、ソバーカの人たちも一緒に食べることに納得してくれたようだ。良太朗は打ち解けるためには、一緒に食事をするのが一番だと思う。同じ釜の飯を食った仲間って言うしね。
「じゃあ、僕はちょっと調理器具とか持ってくるよ」
「ん。良太朗手伝う」
「ソバーカの人たちには、
「わかりました。任せてください」
胸を張って言ってくれたたタタに薪拾いを任せて、良太朗とほのかは家に戻って準備をする。カセットコンロにフライパン、米に調味料と野菜に紙皿などなど。持っていくため水をポリタンクに入れているる間に、良太朗は鍵と懐中電灯をもって蔵へと向かう。
鍵とはいっても原始的なもので、くの字がたの鉄の棒だ。これを引き戸にあいている穴に差し込み、奥にあるかんぬきを引っ掛けて扉を開く。正直鍵じゃなくてもそれっぽい形の物があれば開けることは可能だ。
良太朗は鍵を開けると乱雑に積まれた荷物のなかから、古い
良太朗とほのかが異世界に戻ると、ソバーカの人たちはまだ薪を集めているらしく、人化したリュカだけが待っていた。
良太朗は羽釜に半分ほどのどんぐりを入れて、虫食いを選別するために準備をする。そして小川へと向かうために立ち上がったところで、ほのかに声を掛けられる。
「良太朗どこいく?」
「ああ、小川に水を汲みにね」
「水。ある」
「そうじゃなくて、虫食いも混ざってるだろうから選別しないと」
「なるほど」
良太朗はほのかと並んで小川へと向かう。
「どうやる?」
「こうやってたっぷりの水を入れて、かき回してやるとっ」
良太朗が羽釜の中に手を入れて水とどんぐりをかき回すと、プカプカと浮き上がってくるものが一定数混ざっている。
「で、この浮いてるやつは虫食いで、沈んだままのは大丈夫なやつ」
「虫どうやって入る?」
ほのかは虫入りとして分けたどんぐりを、不思議そうに見ている。
「ああ、穴があいてるのは虫が出ていったあとで、穴から虫が入っていくわけじゃないんだよ」
「じゃあ、虫はいつ入る?」
「地球の話だけど、虫が入るのはまだ花が咲いてるときだよ。虫が花に卵を産んで、実になる段階で既に卵は殻の中にあるんだよ。こっちの世界でもそれは多分一緒だと思う」
「良太朗ものしり!」
「僕も昔、同じような疑問をもってさ。その時に調べたんだよ」
「とりあえず、どんな味なのか知らないとダメだし、素煎りにしてみよう」
「ん。たのしみ」
良太朗はフライパンに軽く油を引くと、来のみを入れてカセットコンロで素煎りにしていく。うっすらと焦げ目がついて、香ばしい香りがしてきた。鬼皮にヒビが入るものが出てきて、どんぐりの素煎りが完成した。
「いい匂い」
「とりあえず味見してみようか」
「ん!」
どんぐりに見えるとはいえ、未知の木の実を食べる事に多少の抵抗はある。だけど、なにかあれば恩寵のおかげで回復魔法だって使えるわけだし、即死するような猛毒でも無い限りなんとかなる。
「うまっ」
「美味!」
「ほんとだ。おいしい♡」
見た目はどんぐりにそっくりだけど、味はとんでもなく美味しい。栗より濃厚なのにくどすぎず上品で、甘みもしっかりあって本当に美味しい。良太朗は最初、塩で軽く味付けをして、焼いたどんぐりに白米にしようかと考えていたが、これなら栗ご飯の要領で炊き込み系が美味しいかもしれない。ほのかとリュカは素煎りのどんぐりが気に入ったみたいで、競うように剥いては食べを繰り返している。
「栗ご飯ならぬ、どんぐりご飯にしてみようか」
「ん!」
良太朗がどんぐりをカセットコンロで下茹でしていると、両手いっぱいに薪を抱えたソバーカの人たちが、森から戻ってきた。良太朗は思っていた以上の大量の薪にすこし驚いてしまうが、残った時は物置に保管しておけばいいだけだ。
「じゃあ下茹でしたどんぐりをみんなで剥こうか」
「ん」
「まだ中は熱いと思うから気をつけてね」
良太朗はやりかたをほのかに教えながら、茹でたどんぐりの鬼皮を剥いていく。最初はみてるだけだったソバーカの人たちも手伝ってくれて、作業はすぐに終わった。良太朗はどんぐりの三分の二をどんぐりご飯に、残りを味噌汁の具と野菜と一緒に炒め物にしていく。
良太朗が薪でご飯を炊くのは初めての経験だ。そのせいもあっておこげが多めで、完璧とは言えないけどなんとか炊き上げることができた。
良太朗はほのかに手伝って貰いながら、出来上がった料理をどんどん紙皿に取り分けていく。それを人化したリュカがソバーカの人たち一人ひとりに、スプーンを添えて手渡していく。ソバーカの人たちは緊張した面持ちで、リュカから料理を受け取って各々の場所へと戻っていく。だけど、誰も食事には手を付けず、大人しく待っている。リュカが配り終えるのを待っているのだろう。
「よし、これで全員に行き渡ったな」
「ん。あとは食べるだけ」
「じゃあ、リュカ。みんなに食べるように言ってあげて」
「じゃあみんな、いただきます♡」
リュカはそう言ってすぐに食事を食べ始める。そして良太朗とほのかも食べ始めたあと、ソバーカの人たちも料理に手をつけた。
「ん! 美味美味」
「美味しいね。栗ご飯よりやっぱり美味しい」
「こっちの野菜と一緒に炒めたのもおいしいよ〜♡」
「ん! 味噌汁も良き」
草原で車座になって食べるご飯は、いつもと違った非日常感もスパイスとなってとても美味しい。ソバーカの人たちはどうなのかと見てみると、どうやら口にあったらしくニコニコと笑顔を浮かべながら食べていた。気に入ってもらえたようで良太朗は嬉しい気分になる。
「おかわりもまだまだありますから、欲しい人は来てくださいね!」
「ん! おかわり!」
「あたしもおかわり♡」
ほのかとリュカが遠慮なくおかわりを申し出てくれたおかげで、遠慮がちにしていたソバーカの人たちもざわめきはじめた。そして、最初におかわりを貰いにきてくれたのはココだった。
「あの、私もおかわりを貰えますか?」
「気に入ってくれた?」
「このどんぐりがこんなに美味しくなるなんて知りませんでした! さすがリュカニア様のご友人です!」
ココがあまりにも手放しで褒めるので、良太朗はむず痒い思いをするのだった。
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