第19話 はじめまして
良太朗は森との境界線辺りを目を凝らして見てみたけど、獣人達の姿は見えなかった。ほのかも探しているが、やはり見つけられないようだ。今日はリュカもまだ姿を見せていないから、そのせいかもしれない。あせっても仕方がないし、良太朗は温泉の確認を先にすることにした。
「温泉はどうだろう?」
「ん!」
ペグに結んだテープを目印に向かっていくと、すぐにうっすらと湯気が上がっているのが確認できた。どうやら
「良太朗。湯気!」
「いいねちょっと温度を計ってみようか」
「ん! 温泉」
良太朗が温度計を取り出すと、ほのかが自分で測りたそうにしているので、良太朗は温度計をほのかに渡した。ほのかは嬉しそうにじわじわと溢れてくるお湯に温度計の先端を入れる。
「落としちゃわないようにだけ気をつけてね」
「ん。まかせて」
しばらく待っていると温度が安定したのだろう、ほのかがお湯の温度は三八度だと教えてくれた。ネットなどで調べたところ、蛇口の温度が四二、三度くらいのほうが良いらしい。
「じゃああと二〇〇メートル掘っておくか」
良太朗は魔法で二〇〇メートル追加で掘っておく。そうなると、トータルで九〇〇メートルも掘ったことになる。このくらい掘ると、一般的には工事費用は一億円近くなるらしい。そのくらいかかる工事が簡単に出来てしまう魔法はやっぱり優秀だ。
「湯船どうする? 木の実風呂?」
「あれも片付けないとね」
「あれ食べられる?」
「うーん、ぱっと見だと椎の実。要はドングリみたいのが中心だったからね。食べられなくはないけど美味しくは無いと思うよ」
「どんぐり食べられるの?」
「種類によってはそれなりに美味しいみたいだよ。でも、昔からあるし縄文時代は主食の一つだったらしいのに、今は一般的には食べないところを考えると栗よりは美味しくないと思う」
「でも、異世界どんぐり」
「そう言われると自信なくなるなあ……。実は美味しいかも?」
「ん。気になる。木の実だけに」
「獣人たちと話が出来たら料理してみるのも良いかもね」
そんな会話をしていると、リュカが飛んでくるのが見えた。森の中に居るだろう獣人たちからもリュカの姿は見えているだろうから、もしかしたら姿を見せるかもしれない。
降り立ったリュカは、早速人化しようと魔法を使い始める。
「ちょっとまってリュカ」
「うん? どうしたのおにいちゃん」
「しばらくドラゴン姿のままでいてくれないか?」
「いいけど、どうしたの?」
「昨日いた獣人たちと話をしてみたくてな。リュカの姿を見れば出てきてくれるかもしれないだろ?」
「そっか〜。わかった〜♡」
「ほのかもここでリュカと待っててくれるかな。ちょっと収穫かごを持ってくるよ」
「ん。まってる」
良太朗は一旦もどり、納屋から収穫かごを持てるだけもっていく。木の実が全部入るとは思えない、一部は物置に入れておくことになりそうだ。
良太朗とほのかは、湯船の中に溜まっている木の実を収穫かごに入れていく。リュカはドラゴン姿のまま退屈そうに座っている。その姿が、香箱座りのメノウにどことなく似ていて、少しおもしろい。
「なあリュカ。あの獣人たちってどこに住んでるんだ? どこかに集落とかあるのか?」
「集落なんてないよ。あたしの縄張りに建物なんて誰もつくらないから」
「え? じゃあ今あるのって、そこの物置だけ?」
「うん。おにいちゃんだけ」
「良太朗すごい」
「じゃあ、あの獣人たちはどうやって暮らしてるんだ?」
「木の実を拾ったり、動物を捕まえたりしてるよ〜。夜は木の根本で寝てるみたい」
どうやら獣人たちは採取狩猟生活を送っているらしい。思っていた以上に原始的な生活を送っているようだ。
「獣人たちには家を作る文化がないんだろうか?」
「野生の獣人」
「ううん。縄張りの外に住んでる獣人はふつうに村とかつくってるよ」
「じゃあなんで?」
「あたしの縄張りだからにきまってるじゃ〜ん?」
「じゃあ、どうして物置はよかったの?」
「うん? あたし建物作っちゃダメなんていったことないよ? 昔にここは我が国の領土だ〜。とかって街を作ろうとした人間は吹き飛ばしたけど」
「それか!」
つまりリュカは、縄張りに手を出された事に怒って作りかけの街を破壊した。それを、建物を作ろうとしたから怒りに触れたと受け取ったわけだ。リュカは、縄張りに人が出入りする分には気にしてないみたいだから、誤解が発生するのも仕方ない。
「ならここに物置ならいいけど、村とかを作るのはダメってことでいいの?」
「おにいちゃんが作るならいいよ♡」
「ん! 良太朗あそこ」
ほのかが指差す先には、犬の獣人たちの姿が見えた。昨日と同じようにチラチラとこちらの様子をうかがっている。良太朗は、そんな獣人たちに向かって大声で叫ぶ。
「おーい。そんなところにいないで、こっちに来なよ」
獣人たちに良太朗の声は聞こえているはずだが、お互いに顔を見合わせるばかりで、森から出てくる様子はない。
「うーん。どうしちゃったんだろ……」
「ん。リュカを怖がってる」
「なるほど。ちょっと行ってくるよ」
「ん。安全第一」
良太朗は森の方へと歩いて近づいていく。獣人たちは少し警戒している様子を見せているが、逃げ出す様子はない。良太朗は一番近い獣人と五メートルほど開けたところで足をとめた。
「言葉わかる? 話し合いをしない?」
「分かります。あなたリュカニア様の使徒?」
そういって森から一歩踏み出して来たのは、身に着けているものからして女性と思われる獣人だった。遠目に見たときにはわからなかったけど、布を巻いていると思っていたものは、草を編んで作った服だった。
「使徒とかじゃないんだけど、あえていうなら友達?」
「リュカニア様の友達⁈ ご無礼をお許しください」
女性の獣人は森から飛び出してきて、良太朗に向かって土下座する勢いでひざまずいて頭を下げる。周りからも同じように「ご無礼を」と口々に言いながら獣人たちが出てくる。
「やめてもらえないかな。偉いのはリュカであって僕じゃないから、僕に頭を下げられるのは困るよ」
「そういうわけにはいきません」
「本当にやめてくれないかな? 僕は対等に話がしたいんだよ。ほら、立って立って」
良太朗は獣人の肩に手を添えて立たせる。
「僕の名前は良太朗。君の名前も教えて貰えるかな?」
「ココです」
「ココね。ココが代表ってことでいいの?」
「代表は父のタタです」
そう言ったココの視線の先にいた獣人が、お辞儀をしながら挨拶をする。
「私がソバーカの族長タタです」
「タタさん。ソバーカ族というのは全部でどのくらい居るんです?」
「八家族、二八人です」
良太朗は人数を聞いて、考えていた計画が問題なく実行できそうだと確信した。でも、とりあえずは仲良くならないと話がはじまらない。
「とりあえず、僕と一緒にリュカのところへいきましょう」
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