第33話 負けていれば?②
夜が明けると、ライズは主人より一足早く起きると、身支度を整える。
最後に腰に剣を携えてから、思いだしたかのように、ベッドの上でスヤスヤと寝ているリーシャを脅した。
「ねぇリーシャもう朝だけど、昨日の約束覚えてる?」
「はえ?何のこと?」
「一晩寝たらもう覚えてないの?コイントスで私が買ったらリーシャがお願いを聞いてくれるって言った」
「そういえばそんなこともあったかしら。まあいいわ、お願いって何?」
ライズはリーシャが寝ているベッドの上に片膝を立てて近寄ると、彼女のルビーのように赤い髪をすくうように触る。
「この乱雑な切り口の髪を切らせてもらえないか?」
「そんなことでいいの?別に私の髪を切るくらいなら好きにすればいいわ」
「分かった、好きにさせてもらう」
ライズはベッドから立ち上がると、腰につけている剣に手をかけた。
「ちょっとライズ!!髪を切るのは構わないわ、私もどうにかしなくちゃって思っていたから。でもそれで切るのはおかしいんじゃない!?」
「何がおかしい?私の剣に不満でもあるのか?ハサミもナイフも結局は刃物だし、剣先だけ見れば、そこまで大差ないと思うし、剣捌きならだれにも負けない自信もある」
「確かにライズの剣術は右に出る者がいないくらいすごいものだとは思うわ。だけど…………私を切ったりしたらどうするの?」
「間違っても、主人を斬ったりするようなことはありえない。リーシャの心配事はいいから、早く後ろ向いて?なんでもお願い聞くっていったよね」
「はい」
リーシャはベッドの上で、ライズに背を向けるように女の子座りをすると、剣士は鞘から剣を抜く
耳につくような金属がかすめる音に、リーシャはより一層恐怖を感じることになるが、怯える主人を気にすることもなく、剣を振りかざす。
「絶対に動いたらダメだからね。死ぬから」
「うっうん……」
ライズが剣を振り度に、髪が斬れる音、刃が風を切る感触がリーシャに伝わり、怯えて震えることも許されない。
「終わったよ。こんな感じかな。とてもかわいらしい髪形に仕上がったと思うし、初めてにしては上出来だと思うが」
「初めて!?ちょっとライズ!!初めて人の髪を剣で切ったの?」
「そうだが?肉を切り裂くのとは違って手ごたえがなかったから、ほんの少し難しかったが」
ライズは一仕事終えた剣を鞘にしまうと、慣れていないような不器用な笑顔を見せた。
リーシャはベッドから立ち上がり、部屋にある小さな鏡の前に立って、後ろ髪をみるように、チラチラと振り返る。
「意外といいじゃないの。っていうか本職の人くらいの出来ね、すごいわ」
「お褒めに預かり光栄です」
「これなら髪を切る仕事にでも食べていけると思うわ」
「これで?」
ライズは腰の剣を軽く持ち上げた。
ライズの髪を切るクオリティがあまりにも高すぎて、ついつい剣で切っていたことを忘れてしまっていたリーシャは、一瞬で現実を突きつけられた。
「その剣じゃ、誰もお客さんは来てくれないわよね」
「髪も切り終えたし、そろそろ港に行く準備をしないと、ケニル殿との待ち合わせに遅れてしまうが?」
「はっ!!、もうそんな時間なのね。急がなくっちゃ」
リーシャは急いで身を整えると、ライズが用意してくれていた小さなパンを口に咥えて、部屋を飛び出した。
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