第29話 テーブル③

「即金でないといけないかしら?別に手元にないってわけじゃないけれど」

「ん~~そうだな。そりゃ先に金がある方がこっちも快く動けるが。即金でないとして、いくら用意するつもりだ?」

「金貨20枚くらいでどうでしょう?」

「少し足りんな。こっちは、今引き受けている仕事すべて投げ捨ててまで引き受けるのだぞ」

「そうですか。そうですね……………………。では、倍の金貨40枚をお出しします」


 リーシャが少し間を置いて提示した金額に、ケニルも含めてすべての酒場にいる人間が、ただの酒場で行われている、ただの口契約の内容に、目を丸くして驚いていた。


 それもそのはず、彼女が最初に提示した金貨20枚という金額は、貨物船一隻を借り上げるには妥当な金額で、内情含めた様々なことを加味して上乗せしても、30枚が妥当。


 それにさらに10枚を追加した金額を言ったのだから無理もない。


 酒場の中が少しづつざわめき始める中、ケニルは真剣に考え始める。


 本当にこの金額を用意するだけの資産と信頼が、目の前の少女にあるのか。すべての仕事を断ってでも、この仕事を引き受ける価値と見返りがあるのか。


「よしっ」


 ケニルは椅子から立ち上がると、リーシャの元へ歩み寄る。


「まだ名前を聞いていなかったな。何という?」

「リーシャと申します。家名は事情があり申し上げれませんの」

「ではリーシャと呼ばしてもらうが、良いか?」

「問題ありません。こちらも、ケニルさんはケニルさんと呼ばせてもらっても?」

「もちろん、俺の名はケニル・バンスっていうんだが、気軽にケニルと呼んでもらっても構わない。これからよろしくな、リーシャ」


 ケニルは、自身の右手をリーシャに向けて差し出した。


「お受けいただけるのですね。ありがとうございます!!ケニルさん」

「”さん”づけも敬語の堅苦しいからやめやめ、気軽に話していこうぜ」

「はい!!」


 二人による話し合いがひと段落すんだところで、酒場の中が野次馬ギャラリー達の歓声に包まれていった。

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