第27話 テーブル①
「あなた、船の船長ですってね」
「あぁ、船長だが船主でもあるが……だから何だって言うんだ」
「ほぼ口約束の状態で金貨一枚を借りれる、つまりそれだけの資産ないし、さぞ利益もあるのでしょうね」
「そりゃ貨物船の船長だからな。最近は積み荷も減って大きな袖は振れないがな」
「では本題に移りましょうか」
――っていうことは最近は暇ってことよね。
リーシャはケニルの顎を掴んでいた手を離すと、後ろに手を組み、背筋をピンと伸ばした。
そして背筋をまっすぐにしたまま、ケニルとの距離を近づけるように、やや前かがみになって、口火を切った。
「船を貸して頂けないかしら?」
「は?何言ってんだ?だれが金貨二枚ごときで船が貸せるかよ。ふざけんなタダ同然じゃねえか」
「あら、すみません。少し言い方が分かりづらかったようね。もっと切り込んだ言い方をするならば、一か月間私だけに船を借り上げさせて頂けないかしら?」
「は!?!?!?!?!?」
酒場にいる客のほぼ全員が、幼い少女が言っていることが、ただの戯言に過ぎないと疑わず、中にはクスクスと笑っている者もいたほどだった。
リーシャを蔑む雰囲気が充満し始める酒場の中であっても、彼女自身は何一つ揺るがない。
ガタイのいい男は、置いてあるビールがこぼれそうなほど、テーブルを叩きながら大爆笑で話しかけてきた。
「おい女、いや娘!!こう見えてもケニルは大人だぞ?からかうのも限度っていうものがある。コイツだけなら文句は言わんが、船というものは一人じゃ動かせん。他の船員だっておるし、家族だっている」
「えぇ、それくらいは弁えてつもりでいますし、からかっているつもりなんて毛頭ございません。今はただ、彼……ケニルさんと対等に交渉しているつもりですが?」
「対等?笑わせるな娘、船を借りる契約だけなら、まだ分かる。だが、船を丸ごと、しかも一か月も貸切りたいとか、動く金の桁が違う。そんな莫大な資金をお前が用意できるとは到底思えない」
「今すぐにと言われれば無理ですが、もちろん用意するつもりでいます」
「金貨二枚ごときの手付金でそんなことが、まかり通るって思っているのか?」
ガタイのいい男は、リーシャがあまりにも、歳不相応な桁違いなことを言っていることに対して、少し頭に血が上り、怒っている様子だった。
一方のケニルは、信ぴょう性は別として、舞い込んできた大きな仕事の話に、水を得た魚のよう、目に正気を取り戻し、彼女の挑発のような提案条件に喰いついてくるのだった。
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