第26話 ギャンブル⑧

「当たり前だろうが!!どこにあんな大金失って平然としていられるやつがいるのかよ」


「そんなに悔しいですか?」

「は?お前、勝ったからか知らんが調子乗りあがって!!女だからと言って自由に言いやがってよ」


 ケニルの顔つきが絶望から怒りへとみるみると変わっていき、椅子から立ち上がると、リーシャの襟元を力強く掴んだ。


 ケニルはリーシャの首を絞めつけるように、襟元を絞る様に持ち上げようとし、彼女のかかとが少し浮いた瞬間の事だった。

 ガタイのいい男が二人の間に割り込むように体をいれ、リーシャの襟元を掴んでいる手を軽々と払いのけて、思いっきり元いた椅子へと突き返した。


「負けてウジウジしてるだけならまだしも、手も上げるとは小僧!!少し頭冷やせ」

 ガタイのいい男は、ジョッキ一杯に入ったビールをケニルの頭上へぶちまける。

「すまんな女、こいつが粗相をしたせいで、せっかく大勝負が、後味の悪いことになっちまって」

「いえ、そんなこともありませんわ。だって私が今から、後味の悪いメインディッシュなんかどうでもよくなるくらいの、吐き出したくなるくらいの滅茶苦茶なデザートを差し上げるのですから」


 ビールを頭からかけられ、ずぶ濡れになり、椅子の上で呆然と再びうなだれているケニルの元へ、リーシャは彼に掴まれて少し乱れた襟元を直しながら、近づいていく。


 意を決したように大きく息を吸い込むと、ケニルより目線を低くするように、床に片膝を立てしゃがみこんだ。


「この金貨二枚はお返しします」

「え?」

「この金貨二枚をお返しする代わりに条件があります」

「は?金貨二枚だぞ?大金だろ?易々と返していいのかよ」

「えぇ、問題ありませんわ。たかが金貨二枚ですもの。安いものですわ、うふふ。まぁ、今から出す条件を飲んでくれればですが」

「どうせ、無理難題な条件だろ?はぁ言ってみろよ」


 リーシャは少し不気味な笑みをこぼしながら立ち上がると、死んだ魚のような眼をしているケニルのアゴをクイッっと掴むと、鋭い眼差しで見下ろした。

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