第25話 ギャンブル⑦

「まぁそうだな、金貨一枚だとちょっと足りねえか。どっかの貴族に売り渡したとしても、金貨二枚以上の価値にはなるだろう」

「だそうですよ?このまま勝負をお引き受けされますか?もちろん断っても、私はこれっぽちも気にはしませんが」

「こんな大博打、逃すわけねえだろ。さっさと始めるぞ」


 ガタイのいい男がコインを指に乗せて弾く準備をする。


「じゃあ女、裏か表か選べ。てめぇの人生を決める大博打だ!!」

「さっきとは逆の表にするわ」

「なら、小僧は裏だな。ええか?」


 最後の確認を青年にとった男は、彼が軽く頷くのを見ると、力強く天井ぎりぎりまでコインを高く上げた。


 落下していくコインに全員の注目が集まる。男の手元に戻ってからも、手で覆われた隠された運命に皆が固唾をのんで見守る中、ライズだけはほっと一息つくように、安堵した表情を見せていた。


「では開くぞ!!」


 手をのけて正体を現したコインの運命は……


「ひゃあああああああああああああ」


 青年は何かに取りつかれたように、頭を押さえながら声高らかに奇声を上げると、うなだれるように椅子に座った。

 ガタイのいい男は、両者に手の甲にあるコインを見せる。


「コインは表だ。よって女の勝ちだ」

「ありがとうございます」

「ふぅ、なんかこっちまで変な汗かいたじゃねえか。これっきりにしてくれよ女」

「えぇ、金貨をかけるのはこれっきりにしますわ。ところで、あちらのお方は大丈夫なのでしょうか?」

「あ?小僧の事か?あいつは心配ねえが、あの様子だとしばらくは立ち直れないだろうな」


 青年は、置物の銅像のように微動だにせず、魂が抜けている様に正気を失っている様子だった。


 リーシャは、うなだれるように座っている青年のもとへ歩み寄り、片足をついて言葉を投げかけた。


「あの、大丈夫ですか?」

「うるせえよ……」

「失礼ですが、お名前を聞かせてもらっても?」

「ケニル・バンスだ。頼むから目の前から消えてくんねえかな。俺はもうショックで悲しいよ」

「それは金貨一枚を失ったからですか?」


 青年のケニル・バンスが落ち込んでいる理由なんて、この状況で一つしかないのに、この質問をする彼女は、誰が見ても彼を挑発している様にしか見えなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る