第23話 ギャンブル⑤

 悲劇な結果にうつ向いたまま微動だにしないリーシャを心配するように、ライズは、彼女の耳元で静かに声をかけた。


「リーシャ、大丈夫?」

「…………」


 騒ぎを聞きつけたように集まってきた他の客の騒がしい声と、金貨を手にした青年の喜びの声で、自分だけが浮いているような立場になった彼女。


 見かねたライズは、この場から離れさせた方がいいと思い、リーシャの手を取った時だった。


 彼女は差し伸べられた手を解き、顔をあげ、まっすぐと鋭い眼差しで青年を狙った。


「いえ、大丈夫よ」

「リーシャ?」

「ありがとうね。大丈夫だから、少し見ていて欲しいの。たぶん今からライズが驚くようなことを私はすると思うから」


 ライズの心配を、コイントスをする前より力強い言葉で返したリーシャは、円卓を思いっきりぶっ叩いた。


 バンッ!!!!!


 ――痛っ!!


 少女の乱暴で思いがけない突拍子のない行動に、酒場全体がすぐに静かになる。


「まだ勝負は終わってないわ!!」


 円卓を囲むギャラリーはリーシャの言っていることが信じられないのか、全員が全員、金貨一枚を失った少女の方を見た。


 もちろん、金貨一枚を得た青年も例外ではなく、静寂の中で一番先にリーシャにつっかかったのも彼だった。


「おいおいおい、勝負は終わってないって、お前今、俺に金貨一枚を取られたばかりじゃないか?まだやるっていうのか?それともまだ手持ちがあるとでも?」

「手持ちですか。正直に申し上げますと私にはもう、金貨もとより銅貨すらも持ち合わせておりません」

「はっはっは。笑わせてくれるなよ嬢ちゃんよ?金持ってないなら、この円卓からさっさと去ってくれねえかな」


 青年は、リーシャから取った金貨を指先で掴み、その輝きと賭け事の勝ちに浸りながら続けていった。

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