第21話 ギャンブル③

「すみません、うちの主人に気軽に触らんとってもらいますかね?」

「ははは、ここにも女だぁ。でも怖いので戻るとしますかぁー」


 ライズは青年に触られたリーシャの髪の毛を、ほこりを払うように軽く整える。何事もなかったように主人を護るように隣に立つ。


「大丈夫?リーシャ?」

「えぇ」


 場が一旦落ち着いたところで、ガタイのいい男が威勢の良い掛け声をあげた。


「さぁギャンブルの始まりだ!!女よ、たった一回きりのこの勝負、いくら賭けると来た!?」


 思わず耳を塞ぎたくなるくらいの大きな声にも、リーシャはビクりとも動じることもなく、ポケットの中にあるお金を掴んだ。


「ごめんなさい……」

「は?今になって怖気づいたっていうのか?これだから女ってやつは、はぁ。話になんねぇ。止めだ止め。はぁ、とんだ茶番にもほどがあるってもんよ」

「いえ、そういうわけではありません。ただ、ちょっと大きいものしかもっておりませんの」

「あぁ?」


 彼女の思いもよらぬ返答に、男は目をギョッとさせると同時に、円卓の周りの観衆はさっき以上に大きな盛り上がりを見せ始めた。


 ポケットの中で掴んだお金を取り出して、円卓の上に置く。

 その瞬間、今日一番の最高潮を見せていた盛り上がりが、一気に静まり返った。


 その中で唯一、ガタイのいい男は口を開けた。


「おい……女、お前さんそれが何か分かっているのか?」

「え?何がです?これがただの金貨だってことかしら」

「銀貨ならまだ分かる。だが、金貨のこんなちっぽけな賭け舞台に差し出すとか正気の沙汰じゃねぇ。すまねえが今回は引いてくれねえか。これはお前さんの為でもあるし、そもそもこの小僧が同額を出せるわけねぇ」

 ガタイのいい男はリーシャに向かって深々と頭を下げた。

「私は別に構わなかったのですが、こうなっては仕方がありませんわ。私もお遊びが過ぎましたし、ここは引かせてもら――」

「誰が出せねえってっか!!!」


 酔いつぶれて円卓にうなだれていた青年が、目を覚ましたかのように、リーシャの話を遮った。

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