第18話 人を雇う⑦
「単刀直入に言うと、貴方を雇う資金は今の私にはないわ。正確には今はない、が正しいかしら。理由は話せば長くなるけど、簡潔に言うとケンベルク家から家出したのね。だからほぼ無一文の状態なの」
ライズはリーシャの話に静かに頷きながら、話の合間合間に料理をつまんでいく。
「とりあえず、宿屋で見せたティアラを売ってしまえば、かなりのまとまった金貨が手に入るわ。報酬はその時でいいかしら。」
ライズはいつのやら頼んだかもしれない三杯目のビールをグビグビと飲みながら、うんうんと頷いた。
「もちろんライズにもこの話を蹴る権利はあるのよ。ここで私を拒んだって自警団にあなたを差し出したり、貴族に対する不敬も咎めるつもりもないわ。どう?私に雇われない?」
ライズはハムスターと思えるくらいに料理を頬張りながら、首を縦に振る。
「それと私、あまり堅苦しい呼び方で呼ばれるのってあまり好きじゃないのよね。だ
からお嬢様とかいう呼び方より、気軽にリーシャって呼んで欲しいし、堅苦しい喋り方や言い回しも禁止ね」
真面目に話すリーシャをよそに、ライズは店の人が持ってきた食後のビールを片手で持ち、豪快に流し込みながらも、口に着けたジョッキからビールが一滴たりともこぼれないよう、器用に頷いていた。
「っていうかライズ?あなたさっきからモグモグパクパクゴクゴクしながらウンウンしかしてないけど、ちゃんと話聞いてる?」
「はい、聞いていますお嬢様?ん?違うな。堅苦しいのはダメだったな。ゴホン!!聞いてるよリーシャ」
「本当に聞いていたの?ただ酔っぱらっているだけじゃないの?」
「何のこれしき、これくらいで酒に飲まれるライズではござらんぞ!!」
大きな声でお酒に宣戦布告したライズは、手に掲げたジョッキを力強くテーブルに叩きつけるように置くと、椅子から立ち上がり、リーシャの隣に座った。
酔っ払い女戦士は、お嬢様の肩に腕を回し、酔いが回ったおじさんのようにダルがらみをリーシャにし始めだす。
「せっかく高貴なお貴族様の生活から抜け出したのに、そんな堅苦しい態度でどうするね?なんか面白い話とかないんかね?」
「ケンベルク家の伝統と気品ある話なら語りつくせないくらいには持ち合わせているけれど……そんなことより、ライズ、酒臭いから少し離れてよ」
「こんなかわいい嬢ちゃんを前に離れるなんてもったいない。はぁ~~~~」
ライズはリーシャに向かって酒臭さに染まった息を吹きかける。
「ちょっとやめてって!!」
リーシャは酔っ払いライズから少しでも遠ざけるように顔を別の方向へと背けた。
目線がライズから遠ざかった瞬間、純粋な元お嬢様の目には真新しい光景が目に留まる。
彼女が見る先には、十人近くの男らが円卓を囲み、円卓の上には一人十枚程度の銅貨が差し出されるように置かれている。そのうちの一人の男が一枚の銅貨を指ではじくように弾き飛ばすと、無際限にくるくると回りながら、酒場の天井近くまで舞うと、重力の勢いのまま落下していき、男の手の甲の上で隠すように両手で器用にキャッチする。
「裏か表か?」
「俺は表だな」「ワシは裏じゃな」「じゃあ裏で」
賑やかな雑音の中で、リーシャは耳を澄ませて彼らが発する声を聞き取っていく。
かすかに聞こえる掛け声が一旦静まると、銅貨を覆っていた手が外され、ギャンブルを嗜む人たちの注目を浴びることになる。
彼らはその結果に一喜一憂し、円卓の上に並べられた百枚近くの銅貨は、直近に弾くように打ち上げられた硬貨の表裏という些細な結果に基づき、分配されていった。
銅貨の枚数が倍になった人、もしくはゼロになった人で一喜一憂の状況だった。
そんな光景が気になったリーシャはライズに尋ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます