第16話 人を雇う⑤

 すれ違う町並みの人はみんなそろって、二人の方を振り返るようにして注目した。

 なんてったって、平民の装いをした少女が、人を殺めることができる刃を携えた剣士を引き連れて走っているのだから。


「何にしよう?好きな物とかある?嫌いな物とかもある?肉がいい?魚がいい?」

「これと言って何がいいとかというのもありませんが……」

「では、ここにしましょう!!」

「大変申し上げにくいのですが、ここはお嬢様にとっては少し早いのでは……」

「なにがかしら?」


 リーシャは、この港町で一番の賑わいであろう店、客のどんちゃん騒ぎの様相が店の外にも響いている店の前で、仁王立ちをするように腕を組んで立ちどまった。


 ライズが店の窓から見ると、肉を片手にジョッキに入ったビールを酌み交わす人や、酒をたしなむ人や酒に飲まれる人であふれ、どんちゃん騒ぎの様子だった。


 あまりにもお嬢様に似つかわしくない、それ以前に十五歳のリーシャにはまだ早い場所。看板を見てもそう。


「お嬢様、ここは……」


 ライズは店の看板とリーシャの体を、何度も繰り返し見る。


「いいのよ!!」

「失礼を承知でお聞きしますが、おいくつで?」

「お酒を飲まなければいい話でしょ?」

「まぁ、酒場に子供が入ってはいけない言われはございませんが」

「ならいいじゃない」

「では、せめてこれを着てください。その背格好じゃ逆に怪しまれます」


 ライズは、黒いローブをリーシャに羽織らせるように肩にかけた。


「これで多少は……フードは被ると怪しいですから、被らないようにしてください」


 リーシャのまだ少し幼さが残る体型をローブで隠すことに成功した?ライズの心配をよそに、お嬢様は、すでに店の中に入っていた。

 後を追うように急いで店に入るライズ。


「いらっしゃいませ~~~好きな席へどうぞ~~~」


 初めての酒場に訪れたリーシャは、何一つためらうことなく、空いている席に座り、ライズも向かい合うように席に座った。

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