第15話 人を雇う④

 冷や汗すらもかいていそうな女戦士の表情をうかがうように、リーシャは手を後ろに組みながら、見上げるように上目遣いでほほ笑んだ。


「どうかされました?もしかして、ご気分がすぐれないので?」

「いえ……、その……、失礼を承知でお聞きしたいのですが、ケンベルク家の人だと示すものはお持ちで?」


 女戦士は、目の前の少女が貴族の中でも有数のお嬢様である可能性を捨てきれず、リーシャへ極力失礼のない言葉を選びながら問いかけた。


「ええ、もちろん!!」


 リーシャは身に着けている指輪を見せるように、手の甲を女戦士に見せつけた。


「その指輪の紋章は……やはりケンベルク家のご令嬢でなさりましたか」


 女戦士はすぐに床に片膝をつき、頭を下げた。

「今までのリーシャ様に対するご無礼、どう詫びたらよいか。自警団へ行かなければならないのは私だったようです。どうぞご自由になさってください」

「なにを言っているのですか?さっきまでの威勢はどこへ行ったの?」

「大変申し訳ございません」


 窓から差し込む、だんだんと短くなる夕日の光を背にして、リーシャは、女戦士と目線が同じ高さになる様にしゃがみこんだ。


「お名前を聞かせてもらっても?」

「ライズと申します」

「ライズさん?それは名字かしら?あまり聞きなれないわね」

「いえ名字ではありません。両親は物心ついたころにはおりませんし、私には身寄りがありませんので。ただライズと呼んでもらえればそれで」

「じゃあライズ?単刀直入に言うわ。私に雇われない?」

「それは、どういった意味で?」

「そのままの意味よ。私と一緒に行動を共にしてくれないかという話よ」


 女戦士のライズは、目をキョトンとさせながら、顔をあげてリーシャの方を見た。


「この私を自警団に連れていかれないのでしょうか?今までの私の物言いと態度と言い、いかなる処罰も受け入れる覚悟でおります」


 ライズとリーシャの堅苦しいやり取りの最中に水を差すように、ライズのお腹の主は、“ぐぅ~~”と、けたたましいほどの唸りを部屋中に響かせた。ほんの少し恥ずかしそうな彼女に対して、笑いがこぼれそうになるのを我慢しているリーシャは、表情を紛らわせるようにふと窓を見る。外の景色は薄暗く夜に覆われ始めたところだった。


 ――もうこんな時間なのね。


 リーシャは、ライズの手を取ると、勢いよくドアを開けた


「おなか減っていちゃ、話どころじゃないでしょ!!どっか食べに行きましょ」

「えっ」

「いいからいいから!!」


 半ば強引に手を取って食事に誘ったリーシャは、そのままライズを引っ張るようにして夜の街を走った。

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