第12話 人を雇う①
そこから、彼女がスヤスヤと寝息を立てるまではほんの一瞬の話だった。
女戦士はリーシャが眠りについたことを確認すると、座っていたベッドの上から立ち上がった。眠りについた彼女を起こさないように、静かにベッドから少し離れた床の上に座ると、壁に身を預けるようにすがり、目を閉じた。
リーシャが目を覚まそうとしたころには、外の景色はオレンジ色に染まり、夕日が今にも身を隠そうとしていた。
「んーーっぅ」
無邪気にベッドの上で背伸びをしたリーシャは、眠そうな目を擦りながら、周りを寝ぼけた顔で見渡した。
「おっ、お目覚めかい?」
床の上で片足を立てて座り込んでいる女戦士が声をかけた。
「まだいたの?」
「追手が来たらいけないからな。どうせ外以外で寝る場所もなかったし、私の仕事はこれで終わりさ」
女戦士は床に置いた剣を手に持って立ち上がると、部屋のドアの方へ歩いていこうとした。
「ちょっと待って!!」
さっきまで寝起きだったリーシャが、勢いよくベッドから飛び降りて、彼女のもとから去ろうとする女戦士の手を取った。
しかし、リーシャの華奢な手は簡単に振り払われてしまう。
「なに?」
「もう少し一緒にいてほしいの」
「もう金貨一枚分の仕事はした。これ以上を求めても応じられる義理も筋合いもない。じゃあな」
細く弱弱しい手を軽々しく振り払った手は、何の戸惑いもなく、薄汚れた宿の部屋の扉のさびれたドアノブへ向かう。
「話があるの!!!」
諦めの悪いといえばまだいい。リーシャのわがままという方が実にふさわしい。ケンベルク家のお嬢様という肩書があれば、こんな些細な願いなんてすぐに叶う話。
けれど、家出をしたリーシャが置かれた立場では欲しいものは自分で手に入れるしかないという選択肢しかなく。
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