第10話 助けを買う③

 女戦士は助けを請うリーシャの手を振りほどいて、お嬢様の彼女に背を向けて、別れの言葉を投げ捨てた。


「だから走れといったのだ。ここは盗賊の縄張り。お前みたいな小娘が一人でうろちょろしていることが、大きな間違いだ。それに私は”銭にならない剣は抜かない”主義でね。まぁ、こんな人数相手を相手にするのは疲れるし、逃げた方が楽なのでね」


 目の前の唯一の希望を失ってしまったリーシャの顔に絶望の表情が浮かび始め、何もない地面をうつろに見つめていた。


 ――このまま奴らに好きなようにされるの?やっぱ私ってなにもできないのね。


 リーシャはため息をついた、深く大きく。


 ――私には、あの女戦士のようにこいつらを倒すような強さはないし、逃げ切れる足も持ち合わしていない。だけど何かしなければ、すべてが終わる。私が持っている物、持ち合わしている物、それは貴族としての素養と……


「この金貨よ!!」


 リーシャは、上着のポケットに手を突っ込んで、ポケットにしまった二枚の金貨のうちの半分、金貨一枚を握りしめた。


 そして、リーシャを見捨てるようにこの場を立ち去ろうとしている女戦士に、思いっきり投げつけた。


 女戦士は後ろに目がついているかのように気配を察したのか、何食わぬ顔でリーシャの方へ顔を向けると、山なりに飛ぶ金貨を片手に取った。


「ほう、金貨ね~~」


 手に取った金貨を親指と人差し指の二本でつまみ、夜空から降り注ぐ月に照らすと、ほんの少しだけ口元を緩ませながら金貨を懐にしまう。


「おい、そこのお嬢さん。少し下がっておれ。この金貨に見合う働きだけはしてやる」


 腰に携えている剣に手をかけた女戦士。


 リーシャはふと女戦士の顔を見上げてみると、ただならぬ殺気を帯びた眼差しをしていた。


 暗闇に染まった森の中、その眼光は風を切るように、月夜に残像だけを残しながら盗賊が待ち構える敵陣へと向かっていく。


 さっきまで威勢よく吠えていた野蛮な連中ども声が急に収まり始める。

 抵抗するような声も、悲鳴すらも聞こえない。剣を交える音さえも。

 リーシャが呼吸を数回するうちに起こった一方的な殺し合いが終わると、女戦士は再びリーシャの前に現れた。


「お嬢さん、金貨に見合うだけの仕事はした。私はこれにて失礼してよいか?」

「仕事って……何を……?」


 リーシャは恐る恐る質問を女戦士に投げた。リーシャ自身もわざわざ聞かなくても、なんとなくは察しがついている。それなのに、声を震わせながら浅くなる呼吸の中で、あえて問うことを厭わなかった。


 自ら手を汚していないにしろ、金貨を報酬として依頼したのはリーシャ本人だったから。

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