第9話 助けを買う②
お嬢様の手を引くのは見るからにして女戦士、日ごろから幾多の鍛錬を積んでいて、走ることなんて朝飯前にも及びはしない。
息を切らすことなくただひたすらに走る女戦士とは、対の存在であるリーシャはもう息も絶え絶えの状態で、ほとんど引きずられているように走っていた。
「はぁはぁはぁ、ちょっ、ちょっと待ってっ!!」
公爵のお嬢様は限界と言わんばかりに声をあげたが、褐色の肌の女戦士は、自らの白い髪をなびかせ、何食わぬ顔でただ、ひたすらに月夜に照らされている道なき道、森の中を走っていた。
――足は疲れて棒のようだし、血反吐を吐きそうなくらいに息をするのが辛いし、もういい加減にしてよ!!
永遠と走り続けることに耐えかねたリーシャは、残り少ない体力を振り絞って女戦士の手を振りほどいた。
「ちょっと待って!!もう走れない!!」
「おっと」
「だからもう走れないって!!」
「おっ?」
女戦士は、リーシャの手が振りほどかれたのと同時に振り返り立ちどまると、リーシャは手を膝に置き、うつむいたまま息を切らしていた。
それを見かねたかのように女戦士は、リーシャの側に近づき片膝をついて、目線を合わせてから、話しかけた。
「死にたいのか?」
「死にたいって、はぁはぁ。そんな……わけないじゃない」
「じゃあ走るんだ。」
「だから無理だって!!こんな夜中にいきなり走らされて……こんな何もない森の中で死ぬ?逆に聞きたいわ、私はこの状況でどういう死に方をするのかしらね」
「その身をもって確かめるといい」
会話をするのも辛そうな呼吸を荒げているリーシャに、淡々と話しかけた女戦士は表情一つ変えずに立ちあがると、自ら来た道を目で辿る様に、森の中の暗闇の遠くを見つめ始める。
「では、私は先にいくが、本当によいか?」
「好きにすればいいじゃない。私はもうこれ以上走りたくないわ」
「来る――――」
「え?何が来るっていうの!?」
「黙れ――――」
女戦士が見つめる方向から、重厚な足音がだんだんと聞こえ始める。人の足音ではないし、森の木々が擦れる音とは明らかに違う、もっと力強い地面を蹴り進む動物の音。
リーシャは息も絶え絶えの中、音のする方向、女戦士が見ている方へ振り向き、その正体を確認しようとした時だった。
「捕まえろ!!奪え!!」
「「「うぉーーーー」」」
一人の男の野太い声を皮切りにして、森の中を殺気立った雄たけびを響かせると同時に、馬の大きい体とそれに跨る野蛮な姿たちが見え始めていた。
リーシャは思わず、さっき振りほどいた女戦士の手を取った。
「あなた、見たところ戦士といったところでしょ!?ここで倒してよ!!」
「は?」
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