第6話 口留め②
質屋の老婆は、ドレスを脱ごうとしているリーシャに対して、思わず椅子から立ち上がって、それを制止しようとした。
「おいおい、お嬢さん。気を急ぐのは分かるが、そのドレスを脱いでどうするのかい?」
「えぇ?もちろんお金に換えるわけですが」
「そういうことじゃなくてのぉー。ドレスを売るのは構わんが、嬢ちゃん、すっぽんぽんで店をでるのかい?」
「あっ、失礼しましたわ。では、この店で一番安い服を買わせてもらえないかしら?」
「そうしてくれ。今持ってくるから少し待っておれ」
リーシャは緩んだドレスが落ちないように胸元を押さえるように支え、自身の中でにじみ出る恥ずかしさを押さえるように、平然とした表情を保った。
質屋の老婆は、リーシャのドレスの代わりとなる服を取りに行くために店の奥に行くと、すぐに服を持って店の奥から戻ってきた。
「これでよいかの?」
質屋の老婆は、そう言いながらニヤリと不気味な笑みを浮かべ、服を受付のカウンターの上に無造作に置いた。店の奥から持ってきた服は、とても安価で手に入りそうな白い無地の生地の安っぽい服でありながらも、さらに歴史を感じるほどに黄ばんでいた。
――見るからに年季が入った服、まさかタダでくれるわけもないだろうし、ぼったくりかしら。
リーシャはボロボロの服を指さしながら、無価値にも等しい服の値段を尋ねた。
「おいくらですか?」
「んーそうじゃの、その前にこのドレスの金貨を出しておくかの」
質屋の老婆は、金貨五枚をカウンターの上に置いた。
カウンターの上には、ボロボロの服とドレスの代金である金貨五枚。まるで天秤の上に掛けられているかのように置かれた二つの対の価値の物。
質屋の老婆は、ニヤリと不気味の笑みを浮かべながら、リーシャに尋ねた。
「嬢ちゃん、この服いくらで買い取ってくれるかの?」
リーシャは、ボロボロで黄ばんだ服をじっくり見るように顔を近づけて、まるで鑑定するようにじっくりと見定め値踏みする素振りをした。
「見たところ、もう廃棄してもいい状態の服と思われますが、私のドレスが金貨五枚なら、金貨十枚といったところですか?」
「金貨一枚!?嬢ちゃん、いや嬢ちゃんだからかの?どこの貴族の娘かしらんが、金貨の価値というものを知らんのか?言っておくが、金貨が三枚もあれば、田舎で贅沢をしなければゆうに一年は暮らせられる。そんな金銭感覚もしらんのかの?さすが、貴族の嬢ちゃんじゃ。はっはっは!!今さら何を言っても遅いからの~~。無知は怖いの~~。」
悪代官みたいにリーシャをあざ笑いながら、カウンターの上に置かれた金貨三枚のうちの一枚を、シワだらけの手で掴んで自身の懐にしまう老婆。
しかし、あざ笑っていたのはリーシャも同じだった。
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