第4話 家出④

 ――さっさとお屋敷から出たいけど、自分の部屋に寄り道するくらいはいいよね。


 リーシャは走るのに邪魔なドレスのスカートを両手でたくし上げて、屋敷の中の廊下を走り、自分の部屋に行く。


「今日でこの部屋とも”さようなら”ね」


 部屋の中心に立って、回るように部屋中を見渡した。


「ちょっと名残惜しいわね、いつかただの”リーシャ”としてもう一度ここに――」


 別れの言葉を、生まれ育った自身の部屋に投げかけると、部屋の一角の柱の目立たない場所に、自分の名を落書きするようにペンで刻んだ。


 屋敷中に噂が広まらないうちに出るには、あまりにも時間がなさすぎる中で、再びドレスのスカートをまくり上げて、廊下に出ようとした時だった。


 廊下からメイドたちの声が聞こえて始める。


 ――まずいわ。メイドたちに見つかれば、絶対に引き留められてしまうわ。


 一秒一秒時間が経つにつれて、メイド達がしている会話の内容が、自分自身の事だと気づいたリーシャは、すでに正規のルートでは、この場を切り抜けることができないことを察すると、日が差し込む窓の方へ振り返った。


 風が吹き込んでカーテンが揺れ動く開いた窓の方を向いた彼女は、さっそくお嬢様らしからぬ行動をするのだった。


 ――ここからなら……大丈夫よ、大丈夫。三階だけど下は池。ケガをしてもせいぜいかすり傷くらい……。


 思いっきり走りだしたリーシャは、その勢いのまま窓枠に足をかけて、思いっきり外の世界へと踏み出した。


 雲一つない綺麗な空。薄赤い長い髪が、彼女の後を追うように流れていく。


 水が弾ける音と同時に、池の水は幕を張るようにリーシャの周りを覆う。


 弾けた水は彼女を閉じ込めることなく、あるべき姿に形を戻し、これから始まる元お嬢様”リーシャ”の家出生活の幕が開けるのだった。

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