第3話 家出③
サダルージがいる机の前までくると、彼女はサダルージが聞いてきたことについて答えた。
「私は私の意志で、私が想う人と婚姻を結びたいと思っています。ですので、今回のお見合いはできません」
「あーそうか。ならば今、お前に想い人がいるというのか?」
「いませんが……ですが」
「もういい、下がれ」
「いえ、下がりません!!」
リーシャはサダルージに負けじと、一度姿勢を立たすように背筋をピンと張り、両の手の拳を深く握りしめて、父親に抗う態度を見せつけた。
サダルージは書類に目を通すのを一旦やめて、ようやくリーシャと目を合わせた。
「リーシャ。お前がこの世に、ケンベルク家に生まれた時点で、長女であるリーシャの役目は名家に嫁ぐことだ。ケンベルク家の権威を衰えさせないためにな。それをしないお前に何の意義があるというのか?」
「私は…………」
「百歩譲って今、現在に想い人がいるのであれば、お前の言い分は分からないこともない。まぁ相手にもよるがな」
リーシャは、今置かれている自分の意義を問われ、すぐに見出すことができずに、下をうつむいてしまう。言葉を詰まらせたまま、どれだけ考えても出てこない。
今までのリーシャ・ケンベルクの人生と言えば、サダルージに敷かれたレールをただ歩くだけ。貴族のお嬢様としてではなく、リーシャとして自らケンベルク家に貢献しようと行動を起こしたことは何一つない。
――私はケンベルク家の娘でありながら、今まで何もしなかったのね。だから何も言い返すことができない。だから嫁に出される。今さらお父様に口答えしても遅い話だわ。
サダルージは眉間にシワを寄せながら、椅子から立ち上がり、執務室のドアを指さして声を荒げていった。
「何の意義もない奴は、今すぐに嫁へ行け!!それがお前の貴族、お嬢様としての運命で使命だ!!」
「分かりました。お父様」
リーシャは言われるがまま、サダルージが指をさしている方へ、自分の父親に背を向け執務室を去ろうとした。
しかし、リーシャはそんなことであきらめたりしないお嬢様だった。
――なにが貴族よ、何がお嬢様よ……。私だって街にいる人達と同じように、何も放り投げて普通の生活がしたかったわよ……。こんなお高い十字架なんて………………放り投げてしまえばいいじゃない!!
彼女はサダルージに背を向けたまま、しっかりと顔をあげて前を向いた。
「お父様、さようなら。ケンベルク家に生まれたこと、お父様のもとに生まれていたこと、感謝していますし誇りにも思っています。ですが私は、嫁にも行きませんし、お父様の言いなりにもなるつもりはありません」
「リーシャ、戯言もいい加減にしなさい」
「いえ、戯言ではございません。私は今からこのお屋敷から出ていくのですから。それくらいの覚悟を持って今、ここにいるのですから」
「勝手にしろ!!」
執務室を出る直前、彼女はもうここに戻ることはないという意思表示をするように、自分の父親に向かって深く一礼をした。
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