第3話 小学一年の頃のちんこ

幼稚園を卒業し、小学校に入学したとき、僕の世界は大きく広がった。これまでお遊戯や昼寝が日常だった生活は終わりを告げ、新しい環境が僕を待っていた。

授業という未知の時間や、出会ったばかりの友達との緊張感混じりのやり取り。自分の小さな世界に、初めて「学校生活」という広がりが加わった瞬間だった。

入学式の日、僕はピカピカのランドセルを背負いながら母親と学校へ向かった。


幼稚園しか知らない幼い僕にはやたら広く見えた校庭と校舎。

まだ見慣れない風景が目の前に広がる中、僕は少し興奮し、でも同時に居心地の悪さも感じていた。


体育館の玄関に着くと、小学六年生のお兄さんが僕の手を引いて案内してくれた。見上げると、僕の倍以上はあるだろうと思える身長に驚き、まるで大人のように見えた。

その背中がやたらと遠い。僕とはすべてが違う存在のように感じられた。


小学校は幼稚園とは全く違った。廊下は長く、教室の机や椅子も硬くて冷たい。先生たちの話す言葉もどこか真剣で、幼稚園の優しい先生たちとは違う。すべてが新鮮で、少し怖くもあった。


そんな新しい生活が始まる中で、僕の体は昨日と何一つ変わっていなかった。

いつもと同じちっぽけな体と、ぽつんと付いた僕のちんこがあった。幼稚園の頃から寸分違わず同じ大きさ。

ちんこはただそこにあるだけだった。まだ何も知らない、何の変化も始まっていない、ただの小さな小さなちんこ。陰毛なんて生える気配すらない、肌色の幼いちんこ。


小学校への通学路の途中には、中学校があった。朝の登校時間になると、その前を通りかかる僕の目には、学生服を着た中学生たちの姿が自然と飛び込んでくる。

学生服を着た彼らは、どこか大人っぽく見える。背の高さも僕とは全然違っていて、校門を通り過ぎる彼らの後ろ姿は、遠くて大きかった。

僕は毎朝、その中学生たちの姿を横目で見ながら歩く。でも不思議なことに、6年後の自分があの制服を着て、あの校門をくぐるなんて、まったく想像できなかった。

それどころか、ほんの6年後、僕自身がああいった大人びた雰囲気を持つようになるなんて、考えたこともなかった。

6年後なんて、当時の僕には遠すぎる未来だった。6歳の僕にとって、6年というのは自分が生まれてから今までと同じ長さの時間。

目の前にいる中学生たちが、自分の少し先の姿だという実感すら湧かなかった。彼らに陰毛が生えているという当たり前の事実すら、僕の頭の中にはなかった。自分自身がそうなる未来も、もちろん知らなかった。

ランドセルを背負った僕の体は小さく、まだまだ子供のままだった。


小学一年生のとき、「エッチ」という言葉を初めて聞いた。

「エッチ」は、何か恥ずかしいこと、特に女の人の体に関することを指す言葉らしかった。

僕にはその意味がよく分からなかったけど、なんとなく使ってはいけない言葉な気がした。

ある日の夜、リビングでテレビを見ていた。両親は台所で夕食の片付けをしていて、僕一人で画面を見ていた。その時、水着を着た女性が映し出された。胸のあたりが大きく膨らんでいてた。

すると突然、パジャマの下で僕のちんこが硬くなった。それまでちんこが硬くなるのは、朝起きた時とおしっこをする時だけだと思っていた。でも、この時は違った。おしっこは出そうじゃないのに、テレビの女性を見ているだけで硬くなってしまう。

その感覚は初めてで、なんだか不思議だった。でも、両親に聞くのは恥ずかしくて言えなかった。ちんこが硬くなる理由が、「エッチ」という言葉と関係があるのかもしれないと思ったけど、それ以上は考えられなかった。


小学一年生の僕は、確かにこう思っていた。ちんこは、ただおしっこを出すためだけの器官じゃないんじゃないか。でも、それ以上の何なのかは分からなかった。

おしっことは関係ない時にも、ちんこは独自の意思を持つように反応した。これは一体なんなんだろう。でも答えは見つからなかった。それは確かに自分の体の一部なのに、まるで別の生き物のように思えた。時々、突然硬くなって主張してくる。


そんな不思議な感覚は、毎日の生活の中でずっと僕について回った。それは言葉にできない、もやもやとした予感のようなものだった。

まだ性のことなんて何も知らない。でもちんこには、きっと僕の知らない大切な意味があるんじゃないか。ちんこには何か秘密が隠されているんじゃないか、という思いだけが心の中で大きくなっていった。そんな漠然とした予感が、幼い僕の心に住みついていた。


たしか、あれはプールの授業の時間だったと思う。教室で水着に着替えるとき、そこには壁も仕切りもなく、男女関係なくみんなが同じ空間で着替えていた。小学一年生だった僕たちにとっては、それが特別なことではなく、当たり前の日常だった。

服を脱ぎ、水着を身につける間、無防備な体がさらけ出される。男子も女子も関係なく、みんなが自然にそこにいた。男子のちんこも普通に見えていたし、誰もそれを気にする様子はなかった。

今、こうして大人になった僕には、その状況が信じられない。同性同士でさえ、裸を見せ合うことには抵抗があるのに、ましてや男女が一緒の空間で着替えるなんて考えられない。でも、当時はそんな意識すらなかった。

男子同士でふざける姿もよく見かけた。ふざけてちんこをくっつけ合ったり、小さなことで笑い合ったり、そこには無邪気さと無頓着さが溢れていた。それが小学生だった僕たちの日常で、何の疑問も持たずに過ごしていた時間の一コマだった。それくらい、僕らは無垢だった。



小学一年生の生活は、思ったほど難しいものではなかった。

授業の時間は短く、内容もまだそれほど複雑ではない。覚える平仮名や数字は、幼稚園の遊びの延長のような感覚で取り組めた。それでも「初めて」という経験が次々と僕の前にやってきた。初めての授業、初めてノートに鉛筆で文字を書く感触、初めてのテスト。テストの結果をもらうときの微妙な緊張感も初めてだった。

一年間を通して、僕は少しずつ学校に慣れていったけれど、自分の体については特に変化を意識することはなかった。


一年生が終わろうとしていた三月になっても、僕のちんこは幼稚園児のころと何一つ変わっていなかった。小さなちんこ。そして、その下にある小さくて柔らかい睾丸。それは、精子を作ることもなく、男性ホルモンを分泌することもないまま、ただそこにあった。

お風呂に入るとき、シャワーのとき、トイレでおしっこをするとき、そのちんこはいつだって変わらなかった。滑らかな肌に覆われた、小さくて、幼いままのちんこがそこに存在している。それが僕にとっての 普通だった。


今から振り返ってみると、当時の僕のちんこは大人のちんことは似ても似つかない、まるで別の生き物のような存在だった。

大きさも、形も、色も、そして機能も、全てが違っていた。


一年生の僕には、自分のちんこが大人のように変化するなんて思いもしなかった。

それがいつか変化して、毛が生え、大きくなって、大人のちんこなるなんて、想像することさえできなかった。それは、まるで空を飛べるようになることや、透明人間になることと同じくらい、非現実的な出来事だった。

そんな変化が訪れる未来など、僕の世界には存在していなかった。

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