第3話 私と月山くん

「はあ、どうしよう。」


 大空は公園で壁当てをしている。彼女はいつもそこでボールを投げているのか公園の壁はボロボロになっている。


「もう、いないよ。ウチの学校には。小野先輩がいればなあ。」


 右のオーバースローから繰り出されるボールは綺麗なスピンを描き壁に当たる。球速は100キロは出ているだろうか、しかしボールは上にそれ、地面に当たりこのコントロールもキャッチャーがいない要因なのかもしれない。


「あ、あのう大空さん。」


「きゃあ!!」


 後ろから急に声をかけられ大空は大きな声を上げてしまった。


「ご、ごめんね。驚かせるつもりはなくて。今日のお礼が言いたくて、つい。」


「なんだあ、月山くんか。」


 後ろに立っていたのは月山であった。何故この場所にいるかはわからなかったが、それよりも彼の体つきに目が行ってしまった。


「月山くんは4年生の冬に引越して来たんだよね?」


「うん。母さんが独立して整形外科のクリニックをこの町に建てる事になったから、この町に来たんだ。」


「何かスポーツやってたの?」


「水泳をずっとやってたよ。この学校にはプールがなくて残念だけどね。」


 大空は月山に近づいて行く。160センチの彼女の身長には敵わないがそれほど変わらない身長。がっしりした体つきは決して勉強だけしていた子には見えなかった。


「野球は?」


「えっ、球技はした事ないけど。」


 顔を間近に近づける大空に対して顔を赤くさせながら月山は答える。


 大空は自分のエナメルバッグからグローブを取り出して月山に渡す。


「キャッチボールしようよ。月山くん!」


「えっ、えっ。」


 大空は月山から離れていく。グローブを急に渡された彼はどうやって付ければいいかわからないみたいだ。


「軽くいくからね。」


 大空が大きく振りかぶる。その姿に少しぼーっとした後慌ててグローブを付け、月山は捕球の構えを見せた。


「んっ!」


「あっ、ぐっは!!」

 

 大空が投げたボールは月山のグローブの上を掠め顔面に直撃した。彼がかけていたメガネは飛び、鼻から血を吹き出しながら仰向けに倒れる。


「ご、ごめん、月山くん!!大丈夫?」


 大空は慌てて近寄るも、月山はすぐさま起き上がり彼女のグローブを持ったまま公園から走り去ってしまった。


「わ、私のグローブ、、、」

 



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