2話目 私と城野
《4月中旬》
「おい、ガリ勉デクの棒、邪魔だ!どけよ。」
「ご、ごめんよ。」
ここは東京のはずれにある【夕陽小学校】5年2組の教室である。
昼休みの時間となり各生徒が思い思いに過ごす中、他の子供達より一際大きな男の子が教室の後ろで複数の子供達に周りを囲まれ罵られている。
「月山!お前が突っ立ってるから、1組に体育館のドッチボールコート取られちまったじゃねぇか!」
「そ、それは城野君達が携帯ゲームしてたからじゃ……いたっ、ごめんって、蹴らないでぇ」
城野と呼ばれた小さめのツンツン頭が彼より20センチは大きい月山の足を蹴り上げる。
「コラァ!!!!あんた達寄ってたかって何してるの!!」
「げっ、、野球バカだ、、」
教室後ろの騒ぎに気付き1人の女の子が大声で叫ぶ。彼女の名札には【5年2組:大空ひまわり】と書かれていた。
「城野、あんた相変わらず自分よりも背の高い子に強く当たって、しょうもないわね。まぁ、背の順の1番前で偉そうにしてるアンタはずっと小さいままでしょうけどね。」
「なんだと!このデカ女!!このデクの棒と一生仲良くやってろ、バーカ!」
「ふ、2人とも、、やめなよ、、」
大空と城野が顔を近付けていがみ合う。大空は月山より少し背が高く、城野は背伸びをしてそれに対抗していく。
「ちび!」「オトコ女!」「なんですって!」「このやろう!」「ふざけんな!」
2人は次第に取っ組み合いの喧嘩になり教室が大騒ぎになっていく。
その様子を男子は城野を女子は大空を応援している。その間で月山はオロオロとしていた。
「やめなさーーーい!」
生徒に呼ばれた先生達がかけつけ、2人を引き離す。それでも互いの罵り合いは止まらない。
「夕日リトルやめてサッカー始めた裏切り者が、ふざけんなあ!!」
「へっ、お前のヘボ親父のチームなんて、潰れちまえ!!」
「なんだと!下手くそショート!!」
「いい加減にしろ!2人とも今から職員室に来なさい!!」
そう言って先生達に連れられ、この騒ぎは収束したのであった。
昼休みにも長時間の説教を受け、放課後には指導室に呼ばれ反省文を渡された2人が学校を出て歩いている。
「くそっ、お前のせいで。」
「あんたのせいでしょ、イジメはやめなさいよ。カッコ悪い。」
この2人は小学3年生の頃から同じリトルで野球をやっていた2人である。喧嘩はするがどこか信頼関係は出来ていた。
「なんで夕陽リトル辞めたのよ。」
「小野さんが中学に行ってから、お前の球が取れるキャッチャーがいないチームに未来があるはずないだろ。俺は勝ちたいんだよ。」
「うっ、、」
「俺が抜けてさらに戦力ダウンしているからな。時代はサッカーよ。」
城野は持っているサッカーボールで華麗なリフティングをしながら歩いていく。
「見つけるもん、キャッチャーは必ず。」
大空は口を真一文字にして城野を見つめる。
「無理無理、誰がお前のノーコンボールを取れるんだよ。俺でも嫌だよ。」
「絶対見つけるもん!」
「むりむりむーりのかたつむりー。大体去年同じ学校の奴皆んなにキャッチャーやらせて全員取れなかったじゃねぇか。」
「うぅぅ、、」
去年大空が夕陽小学校の男子生徒全員を集めキャッチャーをやらせた事件は学校の伝説となっている。
「そ、それでも、アンタがいないせいでショートが空いちゃってウチは困ってんのよ。」
「はあ、、俺を抑えられるピッチャーがいるなら戻ってやるけど、お前が投げれなきゃそんなピッチャーあのチームにいないだろ。」
「うぅぅ、でもでもでもでもでもでも必ずキャッチャー見つけるんだから!」
「お前もしつこいなあ、しょうがねぇ。一打席勝負して俺が負けたら夕陽に戻ってやるよ。ただし俺が勝ったら2度と戻れって言うな。キャッチャーも入れて振り逃げもありだからな。お前のボールを取れないやつに座らせても無駄だぞ。」
「いいよ!必ず見つけて勝ってやるから素振りして待ってなさい!」
そうして2人はアッカンベーをしながら道を別れる。その後ろを大きな体をした男の子がついて来ていたのを2人は気付かなかった。
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