エピローグ:未来への光

 和歌山県新宮市の春は、桜の花びらが風に舞い、街全体が淡い薄紅色に包まれる季節だ。新は満開の桜並木を歩きながら、これまでの人生を静かに振り返っていた。かつて公務員試験に挑み、優子と出会い、数々の試練を乗り越えてきた日々。そのすべてが、今の自分を形作っていると感じていた。

 隣には、妻の優子が寄り添っている。彼女もまた、桜の景色に目を細めながら、手をつないだ新の温もりを感じていた。「綺麗ね」と優子がつぶやくと、新は微笑んで頷いた。「本当に。毎年この季節になると、君と初めて出会った頃を思い出すよ」

 その手には、小さな手がしっかりと握られている。二人の間には、五歳になる娘の芽衣が楽しそうに歩いていた。「パパ、ママ、お花がいっぱい!」と嬉しそうに声を上げる芽衣に、新と優子は目を合わせて微笑んだ。

 「芽衣、桜の花びらを集めてみる?」と優子が問いかけると、芽衣は大きく頷き、「うん、集めたい!」と答えた。三人は公園のベンチに腰掛け、芽衣が一生懸命に花びらを集める様子を見守った。

 新は優子に静かに話しかけた。「こうして家族で過ごせる時間が、一番の幸せだね。これまでいろんなことがあったけど、君がいてくれたから乗り越えられた」

 優子は新の言葉に頷き、遠くを見つめながら答えた。「私も同じよ、新。あなたと一緒だから、どんな困難も怖くなかった。これからも、ずっと一緒に歩んでいきたいわ」

 その時、芽衣が小さな手に花びらをいっぱい抱えて駆け寄ってきた。「パパ、ママ、見て! たくさん集めたよ!」

 「すごいね、芽衣。こんなにたくさん集めたんだ」と新が言うと、芽衣は得意げに胸を張った。「これでおばあちゃんにもあげたい!」

 新と優子は顔を見合わせ、微笑んだ。「そうだね、おばあちゃんも喜ぶよ」と優子が言った。

 夕陽が沈みかけ、空は茜色に染まっていく。三人は手をつなぎ、家路へと歩き出した。道すがら、新はふと立ち止まり、遠くの山々を見つめた。「この街で、これからも家族と一緒に生きていけることに感謝しないとね」

 優子は新の隣に立ち、同じ景色を眺めた。「そうね。新宮市は私たちの大切な場所。ここで出会い、ここで家族になれたんだもの」

 家に着くと、新はリビングで家族写真を手に取った。そこには、これまでの思い出が詰まっている。新は写真を見ながら、「これからも、たくさんの思い出を作っていこう」と心に誓った。

 夜が更け、芽衣が眠りについた後、新と優子はベランダに出て夜空を見上げた。満天の星が輝き、静かな時間が流れる。

 「新、これから先もいろんなことがあると思うけど、あなたと一緒なら大丈夫」と優子が静かに言った。

 新は彼女の手を握り、「僕もだよ。君と芽衣がいてくれるから、どんな未来でも怖くない」と答えた。

 遠くで聞こえる川のせせらぎや、風に揺れる木々の音が二人の心を穏やかにしていた。新は目を閉じ、これまでの道のりと、これからの未来に思いを馳せた。

 「ありがとう、優子。そして、これからもよろしくね」

 優子は微笑み、「こちらこそ、ありがとう。新、あなたと出会えて本当に良かった」と応えた。

 新宮市の夜空には、星々が未来への希望を照らし出している。新と優子、そして芽衣の家族は、これからも幸せな日々を紡いでいくことだろう。

 こうして彼らの物語は、新たな章へと続いていく。愛と絆に満ちた未来へ向かって。

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二人で紡ぐ未来 @hirabayashiseita

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