第22話 夢と魔法の世界へ
朝の光が大阪の街を金色に染める頃、新はホームで優子を待っていた。ひんやりとした秋の空気は澄み渡り、彼の手には二人分のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のチケットが握られている。今日は、二人にとって付き合って一年目の記念日。この日が特別な思い出になるようにと、新の胸は少し高鳴っていた。
「お待たせ、新!」背後から明るい声が聞こえ、振り向くと優子が駆け寄ってきた。頬は朝の冷たい風に染まり、瞳には期待に満ちた輝きがあった。
「全然待ってないよ」と新も微笑み返す。「今日は思い切り楽しもう。せっかくだし、普段はできないことをやろうか」
「例えば?」優子は首をかしげて聞き返した。
「今日はサプライズミッションを仕掛け合うってどう? パークでそれぞれ秘密の企画を用意しておくんだ」
優子は瞳を輝かせて「面白そう! 私も何か考えてみる」と笑いながら応じた。
電車が動き出し、二人は並んで座り、流れる景色を眺めた。新は少し遠くの景色に目を向け、最近の大学生活の忙しさが、二人の時間を減らしていたことをふと悔やんだ。
「ねえ、新」と優子が声をかけた。
彼が振り向くと、優子は真剣な表情で見つめていた。「最近忙しそうだけど、大丈夫? 無理してない?」
一瞬戸惑った新だったが、今日は正直に話そうと思った。「実は、公務員試験の勉強が結構忙しくてね。でも、今日はそのことは忘れて、君と一緒に楽しみたいんだ」
優子はふっと優しく微笑んで彼の手を握った。「うん、今日は二人の特別な日だもんね」
USJに到着すると、ハロウィンの装飾が施されたエントランスは、まるで異世界への入り口のようだった。ゲートを通り抜けると、二人は夢と魔法の世界に引き込まれていった。
「すごいね!」優子は目を輝かせて言った。
「まずはどこに行く?」と新が尋ねると、優子は迷わず「ハリーポッターのエリアに行ってみたい」と答えた。
「いいね、僕も前から行きたかったんだ」と新は笑顔で答えた。
二人はホグズミード村に足を踏み入れた。煙突から煙を上げる家々、石畳の道、幻想的な灯り、どれもが魔法の世界そのものだった。
「まるで映画の中に入ったみたいだね」と新が感嘆すると、優子も「うん、本当に魔法がかかってるみたい…」と呟いた。
「もし君が魔女だったら、どんな魔法を使う?」新は冗談めかして聞いた。
「うーん…時間を止める魔法かな。そしたら、こういう素敵な瞬間をずっと楽しめるから」
新はその言葉に胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。「そうだね。僕も同じ魔法を使って、この時間をずっと続けたいよ」
「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」に乗り込むと、二人は空を飛ぶような浮遊感と迫力ある映像にすっかり魅了され、夢中でその世界に浸った。アトラクションを降りた後、優子は顔を輝かせて「すごかったね! まさかこんなにリアルだなんて!」と興奮気味に話す。
「本当だね。こんな体験、なかなかできないよ」と新も心から楽しんでいる様子だった。
その後も、二人は「スパイダーマン」や「ジュラシック・パーク」などを巡り、子供のように笑い合った。新は優子が欲しがっていた限定のキーチェーンを見つけ、こっそりと買って彼女にサプライズする準備を進めた。
「新、どこに行ってたの?」と優子が不思議そうに聞くと、新は「ちょっとね」と笑顔で答えた。
昼食は「メルズ・ドライブイン」に決めた。レトロなアメリカンダイナー風の店内は、どこか懐かしく、賑やかな雰囲気に包まれている。
「なんだかタイムスリップしたみたいね」と優子が言うと、新も「こういう場所もいいね」と同意した。
食事が運ばれるのを待ちながら、新は真剣な表情で口を開いた。「実はね、公務員試験の準備が大変で、君との時間が減るのが心配で…」
優子は黙って頷き、「私も寂しい気持ちはあるけど、新が頑張りたいなら応援するよ。でも、無理だけはしないでね」と優しく言った。
新はその言葉に心から感謝し、彼女の手をそっと握った。「ありがとう、君がいてくれるから頑張れるよ」
午後もアトラクションを楽しみ、夕方、二人はパーク内の湖畔にたどり着いた。新はポケットから小さな箱を取り出し、「これは君へのサプライズだよ」と渡した。中には、彼女が前から欲しがっていた限定のキーチェーンが収められていた。
「これ…ありがとう! 本当に嬉しい!」と、優子の目には涙が浮かんでいた。「私も今日の思い出を大事にするね」
その時、遠くからパレードの音楽が聞こえてきた。色鮮やかなフロートやキャラクターが通りを進み、夢のような時間がさらに盛り上がる。
「見に行こうか」と新が手を差し出し、優子はその手をしっかりと握り返した。
夜のパレードは光と音の饗宴だった。ふたりは手を繋ぎながら夢中で眺め、まるで時間が止まったかのようなひとときを味わった。
帰り道、優子は新に寄り添い「今日は最高の一日だったね」と静かに囁いた。
「僕も同じだよ。君と過ごす時間が一番の宝物だ」と新は彼女の手をさらに握り締めた。
電車に揺られながら、新は彼女の存在が自分にとってどれほど大切かを改めて実感し、心の中で決意を新たにした。どんな未来が待っていても、彼女と一緒に歩んでいきたいと。
その夜、帰宅後、新はベッドに横たわり、今日の思い出をかみしめるように目を閉じた。優子の笑顔、二人で見た光景、感じた風。それらが鮮やかに蘇り、静かな幸福感が広がった。
一方、優子もまた新との時間を思い返していた。彼と共に過ごす日々がどれほど特別で大切なものか、改めて心に感じながら、そっと微笑んだ。
翌朝、新が目を覚ますと、机に優子からのメモが残されていた。「新へ。昨日は本当にありがとう。あなたと過ごす時間が、私にとって一番の幸せです。これからも一緒に、たくさんの思い出を作っていこうね。優子より」
新はそのメモを手に、そっと微笑んだ。「よし、今日も頑張ろう」と小さくつぶやく。外にはまた新しい朝が広がり、窓から差し込む光が二人の未来を明るく照らしているようだった。
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