第13話 大阪・なんばパークスの屋上庭園のデート

 秋の柔らかな朝の陽ざしが差し込む早朝、新はいつもと違う心の高鳴りに目を覚ました。忙しい日常から少しだけ離れ、優子と二人だけで過ごす静かな時間がどれほど特別かを考えると、自然と口元が緩んだ。窓の外に広がる青空を眺めながら、新はスマートフォンを手に取り、優子にメッセージを送った。

「おはよう、優子。今日は一緒に和歌山市駅からなんばに向かって、なんばパークスの屋上庭園でゆっくり過ごさへん?」

 メッセージを送信すると、緊張と期待が入り混じり、新の指先が微かに震えるのを感じた。数分後、優子から返信が届いた。

「おはよう、新! なんばパークスいいね! 和歌山市駅で待ち合わせして一緒に行こう!」

 優子の返事に新は安堵し、心が弾んだ。今日は特別な一日にしよう、と自分に言い聞かせ、出かける準備を始めた。

 和歌山市駅に着くと、ホームで手を振る優子の姿が目に入った。その柔らかな笑顔と朝の光が溶け合って、まるで幻想的な光景のように見えた。新は駆け寄りながら「おはよう、優子」と声をかけた。

「おはよう、新。なんばパークスに連れて行ってくれるって聞いて、本当に嬉しかったの」

 優子がそう言って微笑むのを見て、新も照れながら「今日は特別な日にするから、楽しみにしててな」と答えた。

 二人は手をつなぎ、電車に乗り込んだ。秋の柔らかな陽ざしに包まれた車窓を眺めながら、穏やかな時間が流れていった。やがて、電車は難波駅に到着し、なんばパークスの屋上庭園へと向かった。まだ人影もまばらな庭園の中、木々の葉が秋風に揺れる音が心地よく耳に届いてくる。新は優子と一緒に近くのカフェで朝食をとり、温かいコーヒーで一息ついた後、エスカレーターを上って屋上庭園へと向かった。

 屋上庭園に足を踏み入れると、朝の澄んだ空気に花々の香りが混ざり合い、まるで夢の中にいるかのようだった。優子はそっと目を細め、鮮やかに咲き誇る花々に見惚れていた。 「本当にきれいね…この静けさが、心に染み渡る感じがするわ」

彼女のその言葉に、新は少し視線を落としながらも微笑んで「ほんまやな。君とこうして静かな時間を過ごせるなんて、贅沢な気がする」と答えた。

 しばらく歩き、二人は芝生のあるエリアに腰を下ろした。新は小さなカメラを取り出し、周りの景色を撮影し始めたが、やがて優子に向けてレンズを向けた。「優子、この風景に君が入ると、もっと素敵に見えるな」と小さな声で言うと、優子は照れながらもカメラに向かって微笑んだ。

 ふと、近くで小さな子供たちの笑い声が聞こえ、二人はその方向に目を向けた。親子連れが芝生で楽しそうにピクニックをしている様子に、優子は微笑みながら「あの子たち、楽しそうね。私もあんなふうに自由に遊びたいな」と呟いた。 「ああ、懐かしいな。子供の頃はよく公園で走り回ったもんや」と新も微笑んで答えた。

 その言葉に触発されたかのように、二人は手を取り合い、ゆっくりと庭園を歩き始めた。新は優子の温かな手の感触を確かめながら、小さくつぶやいた。「君といると、どんなに忙しくても心が穏やかになるんや」  優子はその言葉に心を打たれ、そっと新の手を握り返した。「私も同じよ。新がいてくれるだけで、どんな困難も乗り越えられる気がする」

 二人の言葉は自然に交わされ、互いの心に深く響き合った。

 その時、風が吹き抜け、庭園の花びらがふわりと舞い上がった。光に透ける花びらが二人の周りを漂い、まるで祝福されているかのような瞬間に、新は未来への希望が胸の中にじわりと広がるのを感じた。

 ゆっくりと歩き続ける中、新がふと「またここに来ような」と言うと、優子も頷き、「うん、次はもっとたくさんの場所を一緒に見て回りたい」と微笑んだ。二人の歩みは、秋の柔らかな陽ざしの中に続き、やがて都会の喧騒に戻るまで、二人だけの静かな時間をじっくりと味わった。

 都会の一角に広がる静けさと美しさの中で、新と優子は共に過ごすひとときの大切さを噛みしめ、互いの存在がどれほど大きな支えとなっているかを改めて感じた。

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