第12話 なんばマルイ
二人は和歌山の橋本駅から電車に乗り込んだ。新が車窓を見つめながらふと呟いた。「なんか、不思議な感じがするな。この路線、昔はよく乗ったけど、今はこうやって、君と一緒にいることがまだ夢みたいで」
優子は微笑みながら窓の向こうを見つめた。「うん、昔もこうしていろんなことを考えて、外を眺めてた気がする。でも、今は、君と一緒だから、少し違って見えるね」
到着したなんばの街は休日らしく賑やかで、音楽とざわめきが絶えなかった。新は優子の手を引き、駅から続く人の流れの中へと歩みを進めた。なんばマルイの入り口をくぐると、外の喧騒とは打って変わって、清潔で静かな空気が二人を包んだ。
「良い服、買おうか?」新が少し照れながら切り出すと、優子の顔がぱっと明るくなった。「うん、新に似合うものが見つかるといいな」
優子は店内の照明に照らされた洋服の数々に目を輝かせ、カーディガンやワンピースを次々に手に取っては、新の方に視線を送った。「これなんかどう?」彼女が選んだシンプルなニットのカーディガンに、新は思わずうなずいた。「それ、いいね。すごく似合いそう」
優子が試着室に消えると、新は胸の高鳴りを感じながら、待ち時間が妙に長く感じられた。やがて、優子がカーディガンを身に纏って試着室から出てくると、新の息が一瞬止まる。「すごく似合ってる。君が着ると、こんなに素敵に見えるんだね」
優子は恥ずかしそうに笑いながら「そんなに褒めたら、照れるよ」と言ったが、心の奥では彼の言葉を噛み締めていた。
二人は今度はメンズフロアへと足を運び、新の服を探し始めた。「どんなのが似合うかな?」と新が試着した黒のフード付きカーディガンと紺色のジーンズを纏って出てきたとき、優子は歓声を上げた。「すごくかっこいい! 今日の君が一番かも!」
新は照れながらも優子の言葉を喜び、買い物を終えた後、店を後にした。
街の喧騒から離れて、高級感漂うパスタ専門店に足を運び、二人は並んで座り、たらこのクリームパスタを注文した。料理が運ばれてくると、香りが二人の食欲をそそり、ソースの濃厚な味わいに、自然と会話が弾んだ。
「こうして一緒にご飯食べたり、服を選んだりしてると、ずっとこのままがいいなって思うよ」優子が柔らかな笑顔で言った。
新はその言葉に少し驚いたが、心から同感だった。「そうだね。こうやって何でもない時間が一番大切だって思う」
二人は微笑み合いながら、アイスティーを啜り、ゆったりとした時間を共にした。
店を出て南海難波駅に向かう道すがら、周囲の雑踏の中でも二人だけの空間がそこにあるかのようだった。「次はなんばパークスでも行こうか?」と新が言うと、優子は頷いた。「うん、次のデートが楽しみだね」
駅のホームで新が「優子、気をつけて帰ってね。遅くなったし、暗いから」と言うと、優子は「うん、ありがとう。新も気をつけてね」と優しく応じた。別れ際、新の手を握りしめた彼女の柔らかな手の温もりが、新の心にしっかりと刻まれた。
帰りの電車の中、新はその日一日を思い返しながら、ふと優子の笑顔を思い浮かべた。次に会うときには、もっと彼女を喜ばせたい、もっと近くに感じたい。そんな思いが胸の中に広がり、新の心は温かな期待で満たされていた。
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