第11話 道の駅でのひととき

 温泉で体を休めた後、車に戻った新と優子を、友人の浩司が振り返って見つめた。「じゃあ、次はかつらぎの道の駅に向かうけど、それでええか?」と軽く尋ねる。

 新は横にいる優子に目をやり、少し頷いてから答えた。「うん、頼むわ」。車内には温泉で温まった体の余韻と心地よい疲れが漂い、リラックスした雰囲気が満ちていた。新はちらりと助手席の優子を見る。気づいた優子が優しい笑顔を返すと、新も思わず微笑んだ。

「今日もええデートやなあ」と新がふと呟くと、優子は「ほんまに、こうやって一緒にどこか行けるのが、なんか嬉しいわ」と頷きながら小さく微笑んだ。

 かつらぎ町の道の駅に到着すると、秋の風が心地よく吹き抜け、周りには地元の果物や手作りのお菓子を扱う店が軒を連ねていた。秋らしく、新鮮な柿がずらりと並ぶ風景に、季節の移ろいが色濃く感じられる。二人はゆっくりと車を降り、店の方へと向かった。

「優子、ソフトクリーム食べんか?」新が楽しげに提案すると、優子も「うん、いいね!」と頬をゆるませて応じた。

 レストランのカウンターでバニラソフトクリームを注文し、並んでベンチに腰掛ける。冷たくて甘いクリームが口の中で溶けていくと、湯上がりの体に心地よく染みわたり、二人は静かな笑みを交わした。

「こういう何気ない時間って、なんか特別やな」と新がぽつりと呟くと、優子も「ほんまやね」と満足そうに頷いた。二人はソフトクリームを食べながら、静かな幸せを感じていた。

 その後、お土産屋に立ち寄ると、和歌山産の新鮮な野菜や果物が並び、棚には郷土の特産品が所狭しと並んでいた。「和歌山の特産って、こんなにたくさんあるんやな」と新が目を輝かせて言うと、優子も「うん、どれもおいしそうやね」と楽しげに答えた。

 二人は並んでお土産を選び始め、新は「和歌山ラーメン」と「梅干し」を手に取りながら、「これ、家で食べるの楽しみやな」と少し誇らしげに言った。優子は「薩摩芋タルト」に目をつけ、「これ、甘いし、ほんまに美味しそう。甘いものって幸せな気分にさせてくれるね」と笑顔で言った。

「これで家でも和歌山を思い出せるな」と新が言うと、優子も「うん、一緒にまた来たいな」と微笑んだ。

 やがて荷物をまとめ、二人は浩司の車に戻った。運転席に座った浩司が、橋本駅まで送っていく準備を整えている。「今日はほんまにありがとうな、浩司。君がいなかったらこんな一日にはならんかったわ」と新が感謝の言葉を口にすると、浩司は気恥ずかしそうに笑いながら、「いやいや、おれも楽しかったわ。また行きたいとこがあれば声かけてくれ」と軽く手を振った。

 車は再び橋本駅へ向けて走り出し、夕暮れの色に染まる景色が車窓を流れていく。道の駅での穏やかな時間や、温泉での心安らぐひとときが二人の心に残り、新と優子はそれぞれ静かに景色を眺めながら、充実した気持ちをかみしめていた。

 橋本駅の駐車場に到着すると、新と優子は車を降り、浩司に手を振って別れを告げた。「また頼むで、浩司」と新が言うと、浩司も手を振り返し、車を静かに発進させた。

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