第10話 温泉のひととき
隅田八幡神社でのひとときを終えた午後、新と優子は浩司と共に車を走らせて温泉へ向かっていた。目的地の温泉施設に近づくと、緑の濃い山並みが迎えてくれた。陽射しは強いものの、車の窓を開けると心地よい風が流れ込み、二人の心を一層軽くしてくれる。
「ここはいい場所やな。楽しみやわ」と新が笑顔で言うと、優子も窓の外を見ながら、「うん、すごくリラックスできそうね」と頷いた。
やがて温泉施設に到着し、新と優子は早速大浴場へと向かった。脱衣所で服を脱ぎ、浴場へ入ると、そこは湯気に満ち、清らかな香りが漂っている。新はまず身体を洗い、さっぱりとした気分で広々とした露天風呂へと足を踏み入れた。
温かな湯に浸かると、心の底からほっとした気持ちが広がり、まるで全ての疲れが流れ去っていくようだった。周囲には立派な木々が生い茂り、風が吹くたびに葉のざわめきが耳に心地よく響く。澄んだ空気と湯の温かさが一体となり、新は大きく息をついて目を閉じた。
次に、サウナへと向かうと、重厚な木の香りが広がり、心地よい熱が全身を包み込んだ。新はじわりと汗が出るのを感じながら、熱気に身を委ね、心の緊張も少しずつ解きほぐれていくのを感じた。
湯から上がり、優子と合流すると、新は「足裏マッサージも行こうや」と提案した。二人は温泉内のマッサージルームへと進み、案内されたリクライニングチェアに腰掛けると、スタッフが丁寧に施術を始めた。リフレクソロジーの心地よい痛気持ちよさがじわりと足から全身へ広がり、新は思わず目を細めた。
「効くなあ…こんなに足が軽くなるなんて」と小さく呟くと、隣で優子も幸せそうに微笑んだ。「本当に、こんな贅沢な時間があるなんて…」
二人は、歩き疲れた足を癒されながら、静かに言葉を交わし合い、ふと目を合わせると自然と笑顔がこぼれた。
施術を終え、リフレッシュした気分でロビーに戻ると、浩司が雑誌を読みながら待っていた。「どうや、すっきりしたか?」と振り返る浩司に、新は「うん、体が軽くなったわ」と笑顔で応えた。
三人はそのまま食堂へ向かい、温泉の余韻を楽しむように食券機の前で何を食べるか迷った。「ミックスフライ定食にするか」と新が言うと、優子も「私もそれにしよ」と続けた。浩司も同じメニューを選び、食券を手に三人はカウンターで注文を済ませた。
料理が運ばれてくると、揚げたてのミックスフライから立ち上る香ばしい香りが食欲をそそる。新はまずポテトフライを一口頬張り、カリッとした食感と塩の風味に「これ、うまいわ」と笑顔を見せた。優子もエビフライを口に運び、「サクサクで美味しい!」と嬉しそうに応えた。
揚げ物のサクサク感とポテトのホクホクとした食感、ふんわりとした白米の香りが口の中で絶妙に混じり合い、三人は一様に満足げな表情を浮かべた。浩司もヒレカツを味わいながら「温泉上がりに揚げ物って、最高やな」とつぶやいた。
食事の締めくくりには、あんみつが運ばれてきた。つぶあんの甘さ、もちもちの白玉、そして寒天のひんやりとした食感が絶妙に合わさり、新は思わず「あんみつ、うまいなあ」と口に出した。優子も「うん、甘いものって、やっぱり幸せになるね」と笑顔で頷いた。
食事を終えて、食堂を出ると、夜の涼しい風が三人の頬をそっと撫でた。食堂での楽しげな会話、温泉でのひととき、そして心地よいリフレッシュ感が胸に残る中、優子が小さな声で「新、ありがとうね」と囁いた。新は彼女の手をそっと握り返し、穏やかな微笑みを浮かべながら「こちらこそ、ありがとうな。これからも、こうやって一緒にいられるとええな」と静かに応えた。
温泉で過ごしたひとときは、二人の心に新たな絆を深めるかけがえのないものとして刻まれた。
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