第5話 和歌山マリーナシティの夕べ

 和歌山城での余韻を胸に、新と優子は夕暮れの街を歩き、和歌山マリーナシティへと向かった。バスの中、車窓の風景が市街から青い海へと変わり、二人の心は自然と高揚していく。やがて視界に広がったのは、夕日に染まるマリーナシティの広場。潮風が二人を迎え、遠くの海が金色に輝いていた。

「新、マリーナシティってこんなに開放感があるんだね」と優子が感嘆の声を上げると、新も頷いた。「ここから見える海の眺めも、夕暮れ時は格別だろうな」。二人は自然と肩を並べ、広場を囲むカラフルな建物の方へと歩みを進めた。ポルトヨーロッパの街並みは、ヨーロッパの港町を思わせる石畳とレンガの壁が美しく、異国の景色にいるような錯覚を覚える。

「まるで映画のワンシーンみたい」と新がつぶやくと、優子も微笑みながら応えた。「こんな素敵な場所、写真に残さないともったいないよね」。二人はカメラを手に取り、建物や海を背景に何枚も写真を撮り合った。ふと新が「ここで結婚式の写真を撮ったら、きっと素敵な思い出になるだろうな」と呟くと、優子は少し照れたように笑みを浮かべて「うん、特別な思い出になりそう」と頷いた。

 その時、不意に海風が吹き付け、二人の持っていたカメラが吹き飛びそうになった。新はとっさにカメラを掴み、優子も驚いた顔で笑う。「危なかったね!」と新が笑うと、優子も「本当にね、なんだか冒険みたいだね」と笑顔を返した。

 次に、二人は観覧車に乗ることにした。観覧車はゆっくりと空に向かって昇っていき、二人の視界に広がる景色は一変していった。海の青さが徐々に深まり、空が茜色に染まる中、優子が小さな声で「すごくきれい…まるで宝石みたい」と呟くと、新も窓の外を見つめながら頷いた。「本当にね。夕方の海って、こんなに美しいんだな」

 二人の視線が揃って海を見ていると、突然観覧車が停止し、周囲は真っ暗になった。突如の停電に他の乗客がざわめき、静かな観覧車内に不安な空気が漂う。優子が驚いて新の腕に掴まると、新は彼女の手を握り返して「大丈夫、僕がいるよ」と優しく囁いた。優子はその言葉に安心したように微笑み、「ありがとう、新。あなたと一緒なら、何があっても平気だよ」と静かに答えた。

 非常灯が点灯し、淡い光が二人を包み込んだ。新は心の中で、彼女とのつながりが以前よりも深まっているのを感じた。このひとときが二人にとってかけがえのないものとなる予感がした。

 観覧車を降りた後、二人は次のアトラクションを求め、黒潮市場へと足を運んだ。市場の賑やかな活気に包まれ、二人は観光客に混じりながら、和歌山の新鮮な海の幸を楽しむ準備をした。特に、名物のマグロ解体ショーは圧巻で、職人が鮮やかな技でマグロをさばいていくたびに、新は興奮を抑えられず拍手を送り、優子もその迫力に息を呑んだ。

「すごいね、新。こんなに大きなマグロが、解体されるとこんなに美しいなんて」と優子が感心しながら言うと、新も「本当だね。なんだか食べるのがもったいない気もするよ」と答えた。その後、解体されたばかりの新鮮なマグロを味わい、二人はその美味しさに感動した。

 食事を終えた後、二人はマリーナシティのショップを見て回りながら、和歌山名物の乾物や調味料などをお土産に選んだ。夜が近づき、空が暗くなると、マリーナシティの建物にイルミネーションが点灯していて、周囲を華やかに彩っている。新はその美しい光景に見とれ、「優子、夜のマリーナシティもこんなに綺麗なんだな」と感嘆した。

「そうだね、まるで夢の中にいるみたい」と優子が笑顔で応じると、新は彼女の手をそっと握った。「君とこうして一緒にいる時間が、何よりも特別だよ」。優子もその手を握り返し、「私も同じ気持ち。どこにいても、あなたといると幸せ」と心からの言葉を返した。

 夜が深まるにつれ、二人の会話はこれからの未来に向けられた。仕事や家族のこと、そして二人が描く未来の夢について。お互いの思いを共有し合うことで、彼らの絆はより強く結びついていった。新はふと心から感謝の気持ちを込めて「今日一日、本当にありがとう。君と過ごせて幸せだったよ」と言うと、優子も優しく微笑んで「私も、これからもずっと一緒にいようね」と答えた。

 和歌山マリーナシティで過ごしたこの一日は、二人にとって忘れられない思い出となった。ロマンチックなイルミネーションと静かな夜の海辺が、彼らの未来を明るく照らしているように感じられた。

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