第4話 和歌山城のふたり
一週間ぶりのデートの朝。新はベッドで軽く背伸びをし、スマートフォンを手に取った。「明日のデート、いよいよだね」と優子にメッセージを送ると、すぐに返事がきた。「うん、明日ね。今日は早めに寝るよ。新も無理しないでね」という彼女の優しい言葉に、新はふと微笑んだ。こんな細やかな気遣いが、彼女の魅力をいっそう引き立てているのだ。
翌朝、和歌山市駅で優子を待ちながら、新は少し緊張していた。やがて、軽やかな足取りで優子が現れた。「おはよう、新! よく眠れた?」と爽やかな笑顔を見せる。彼女の明るい姿に、新の心は自然とほぐれていった。「おはよう、優子。今日は天気もいいし、最高のデート日和だね」二人は互いに笑顔を交わし、和やかな空気の中、バスに乗り込んだ。
車窓から和歌山城の石垣が見えてくると、優子は窓に手を当てて息を呑んだ。「わあ、本当に立派ね…」と、目を輝かせている。新もその様子を微笑みながら見守った。「何度訪れても新鮮に感じるよ。今日は天守閣まで行って、景色を一緒に楽しもう」と、新は彼女の隣でそっと語りかけた。
二人は城門をくぐり、ゆっくりと石畳を歩き始めた。春の風が頬を撫で、桜の花びらが舞い落ちている。ふと優子が新の手を取り、「こうして一緒に歩けるって、特別だね」と微笑んだ。その手の温もりが、新の心にじんわりと広がり、「君といると、どんな場所でも特別に感じるよ」と応じた。新は心からそう思っていた。二人の間には言葉にはならない穏やかな時間が流れ、石畳の一歩一歩がまるで二人の絆を深めるかのようだった。
天守閣へと続く階段を登り始めた時、偶然にも古い友人の田中さんに出会った。田中さんは地元の歴史研究者で、和歌山城の歴史を深く知る人物だ。「新くん、優子さん! 奇遇だね」と声をかけてくれるその姿は、昔と変わらず頼もしかった。二人は立ち止まり、和やかな再会を喜んだ。
「田中さん、久しぶりです。また一緒に歴史散歩でもしませんか?」と新が言うと、田中さんは「ぜひ。また新たな視点でこの城を楽しみましょう」と快く応じた。田中さんと和歌山城について語り合う時間は、二人にとっても貴重なものとなり、彼の情熱に触れることで、城がさらに生き生きとした存在に感じられた。
天守閣からは和歌山市が一望でき、遠くには青く光る海、そして緑豊かな紀の川公園が見える。優子が景色に目を奪われ、「わあ、素敵…あの公園、行ってみたいな」と感嘆の声を上げると、新は優しい眼差しで彼女に提案した。「今度、ジョギングしながらゆっくり散策してみない?」優子はその言葉に嬉しそうに微笑み、「ぜひ、楽しみにしてるわ」と答えた。
展望台のベンチに腰を下ろすと、二人はまた穏やかな時間を共にした。田中さんの解説を受けながら、城の歴史に思いを馳せ、ふとした拍子に互いの将来についても語り合う。和歌山の景色と歴史が、新と優子の心をさらに繋いでいくのを、二人は感じていた。
「新と過ごすと、知らないことがどんどん見えてくるわ。自分が地元にもっと親しみを持てるなんて思わなかった」と優子がぽつりと呟くと、新も深く頷き、「僕も君がいると、いつもの景色が特別に見えるよ」と静かに答えた。その時、新は心の中で、彼女と過ごす時間が自分にとってどれほどかけがえのないものかを改めて感じていた。
やがて城を後にした。新はふと優子の手を取り、「これからも一緒に、いろんな景色を見ていきたい」と優しく囁いた。優子もその手を握り返し、「私も、同じ気持ちだよ」と答えた。
和歌山城での学びと感動は、二人にとって特別な思い出として、これからの未来を共に歩む力となると確信していた。
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