第2話 故郷と新の誓い
新は、和歌山県新宮(しんぐう)市の小さな漁村で生まれ育った。海に囲まれたその村は、四季ごとに姿を変え、海の豊かさと恐ろしさを併せ持っていた。幼い新は、早朝のまだ暗い浜辺で祖父と共に船を漕ぎ出すのが日課だった。祖父が網を投げ、海の波が静かに揺れる様を見つめながら、新は自然の力を肌で感じて育った。海には生命が溢れている一方で、その荒れ狂う姿は容赦がなく、村の漁師たちにとっては常に戦いの場だった。
中学生になる頃、新は漁村が抱える現実に少しずつ気づき始めた。かつて賑やかだった村は、年々静かさを増していき、祭りも次第に活気を失っていた。ある日、祖父と漁に出ていた時、祖父がぽつりと呟いた。 「この村も昔は活気があったけどなあ。若いもんはみんな都会へ行ってしもうた。村は寂しゅうなったな」 その言葉は新の胸に深く刻まれた。愛する村が静かに衰退していく現実に直面し、どうしようもない無力感が胸に込み上げてきた。しかし、その無力感がいつしか「何かできないか」という強い思いへと変わり始めた。
高校に進学した新は、生徒会長として村の祭りを復活させるプロジェクトを立ち上げた。村の若者たちを巻き込み、祭りの運営に必要な資金を集め、祭りの内容を現代に合わせて改良するなど、多くの時間を費やした。祭り当日、村の人々が集まり、かつてのような笑顔が広がる光景を目にした新は、「自分にも村を変える力があるかもしれない」と確信した。
また、新は週末になると、地域の高齢者の家を訪れ、話し相手になったり、買い物の手伝いをする活動にも参加した。ある日、訪れたお年寄りが見せてくれた古い写真アルバムには、かつて賑やかだった祭りの様子が写っていた。「新君のおかげで、またこんな風になったよ」と感謝された時、新は言葉にできないほどの喜びを感じ、地域への思いがさらに強まった。
高校二年生のある日、市役所の職員が学校に講演に訪れ、地域の課題について語った。「皆さんの力が必要です。地域の未来を皆さんの手で変えていくことができるんです」その言葉は、新の心に強い衝撃を与えた。彼の心の奥にあった「村を救いたい」という思いが、はっきりとした形を成した瞬間だった。新は和歌山大学の経済学部に進むことを決意した。地域活性化について本格的に学び、公務員として故郷のために働く道を選んだのだ。
大学に進学した新は、地方自治や公共政策を学びながら、和歌山県の観光振興や過疎地域の経済活性化について研究を進めた。ゼミでは、地元の企業や自治体と連携し、観光資源を活かした新たなプロジェクトを立ち上げるなど、実践的な活動に取り組んだ。そんなある日、同じゼミに優子がいることが判明した。明るく、周囲に思いやりを持つ優子は、新が悩んでいる時には自然と支えてくれる存在だった。彼女と過ごすうちに、新は自分の夢を追い続ける力を得るようになっていた。
「和歌山の、和歌山による、和歌山のための地方政治を実現する」──新の座右の銘は、リンカーンの言葉をもじったものであり、彼の信念を象徴していた。大学時代に取り組んだ地域プロジェクトがうまくいかず、挫折を味わうことも多々あったが、それでも彼は信念を曲げなかった。優子はそんな新を見守り、励まし続けてくれた。
大学生活の終盤、新は地域再生に関する論文を書き上げ、それが地元自治体で採用された。この論文が現実の政策に役立つものとなり、新はその瞬間、自分の夢が現実に近づいていることを実感した。優子も彼の成果を喜び、二人は将来に向けた希望を共有していた。
卒業後、新は地元に戻り、若手の公務員として村の活性化に挑戦した。彼の活動は次第に地域住民からの信頼を集め、少しずつ村がかつての活気を取り戻し始めた。優子も商社の仕事を通じて、地域企業との連携に貢献し、地元経済の発展に尽力していた。二人の協力関係は深まり、彼らは共に地域活性化に向けて歩み続けるようになった。
新と優子の物語は、故郷への深い愛と、支え合う強い絆を描いている。彼らの情熱と努力が和歌山の未来を照らし続けることを信じて、二人は手を取り合い、次の一歩を踏み出した。
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