第10話 土鍋とパッタイの絆

パンティハンターとの激闘から数日が経ち、カフェ「パッタイ・タイムズ」は再び静けさを取り戻していた。

雅史はカウンターで紅茶を淹れながら、背中に背負った土鍋を見つめていた。その土鍋は、これまで数々の戦いを共に乗り越えてきた相棒だった。


「土鍋…お前がいなかったら、俺はここまでやってこれなかったな。」

雅史がぽつりと呟くと、隣でメニュー表を整理していた玲奈が興味深そうに話しかけてきた。


「その土鍋って、特別な思い入れがあるの?」


雅史は少し照れくさそうに笑いながら答えた。

「まあな。昔、とある料理人から譲り受けたもんだ。その人が俺に教えてくれたんだよ。『パッタイはただの料理じゃない、魂そのものだ』ってな。」


玲奈はその言葉に驚きつつも、雅史の視線がどこか遠くを見ていることに気づいた。

「その料理人って、どういう人だったの?」


「昔、タイで旅をしていた時に出会ったよ。その人はどんな材料でも最高のパッタイを作り上げる天才だった。俺もその味に感動して、弟子入りを志願したんだ。」

雅史は土鍋を軽く叩きながら続けた。

「この土鍋も、その人から譲り受けたものなんだ。俺にとって、ただの調理器具じゃない。信念を象徴する存在なんだよ。」


玲奈は静かに頷き、紅茶を一口飲んだ。

「だから、そんなにパッタイにこだわっているのね。」


その夜、カフェの外に誰かが立っている気配がした。雅史はそっと立ち上がり、ドアを開ける。そこに立っていたのは、一人の年配の女性だった。彼女は雅史をじっと見つめ、小さな声で言った。


「あなたが泰雅史ね…。カフェのマスターであり、パンティを守る者だと聞いているわ。」


雅史は驚きつつも、落ち着いて答えた。

「そうだが、あんたは一体何者だ?」


女性はゆっくりと頭を下げ、話を始めた。

「私はノーパンティに家族を奪われた者です。彼らは私の娘が営む下着店を襲い、商品をすべて破壊し、生活を奪ったのです…。」


雅史の眉が険しくなる。

「そんなことが…。」


女性は涙を拭いながら続けた。

「あなたがノーパンティに立ち向かっていると聞き、どうしてもお礼を言いたくて。パンティを守るために戦ってくれて、ありがとうございます。」


雅史は少し照れくさそうに頭を掻いた。

「俺はただ、自分がやるべきことをやってるだけだ。それに、パンティを守るってのは俺にとってただの使命じゃないんだ。信念なんだよ。」


女性は静かに微笑み、雅史に感謝の言葉を述べて去っていった。雅史はその背中を見送りながら、胸の中に強い決意が生まれるのを感じた。


玲奈が後ろから声をかける。

「やっぱり、あなたは特別な人ね。ただのカフェマスターじゃない。」


雅史は土鍋を背負い直し、紅茶をすすりながら答えた。

「特別じゃないさ。ただ、土鍋とパッタイがあれば、俺は何だってできる気がするだけだ。」


二人は静かに夜空を見上げた。戦いはまだ続くだろう。しかし、その中で彼らは確かな希望を見つけていた――。


(第10話 終わり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る