3 最高のデザート

 小学校しょうがっこう給食きゅうしょくのアイスクリーム。

 三十さんじゅうにん以上いじょういる教室きょうしつでは、工場こうじょうだんボールに梱包こんぽうされた状態じょうたいのままはこばれてるらしい。

 桂川かつらがわ先生せんせいどものころは、ミルクアイスバーで。

 ただ、ぼうアイスは危険きけんだから、男子だんしのおかわりがわったあとに、全員ぜんいん着席ちゃくせき状態でくばられて。全員がわるまで、せきからはなれてはいけないルールがあったそうだ。

 それはそうだ。

 もし、早食はやぐいが得意とくいな男子がおそべる子のそばをとおるとき。

 わざと肘鉄ひじてつらわせたら、どうなるか。

 アイスの棒がはなあなくちの穴のなかさって、おおケガをする可能かのうせいがある。

 もちろん、昼休ひるやすみのグラウンドの場所ばしょりしかあたまくて、わざとじゃなくてもぶつかることはある。


 この名前なまえの無い学校がっこうではだれかとぶつかることはほとんど無い。

 子どもはわたし一人ひとりだけ。

 先生も教室に一人だけ。

 喧嘩けんかもしていないし、おたがゆずうことも出来できている。

 ただ……。

 今日きょうのアイスクリームは、どこかの製菓せいか工場からかんじは一切いっさい無かった。




北国きたぐにかんじるバニラアイスです。

 バニラは、マダガスカルさん使用しようしています」




 いつのにか、ひょっとこのおめんのおじさんが教室にはいって来ていた。

 こおりのバッドでやされている、ちいさなバッドと、銀色ぎんいろのディッシャーがまえはこばれて来た。

「……風呂ふろ上がりのアイスは無しだな」

「えー!!!

 お風呂上がりのは、暖房だんぼうガンガンで食べますから!」

「あのなー。

 こんな脂肪しぼうぶんたかものひるよるも食べてると。

 ちょうがビックリするぞ?」

「じゃあ、お風呂上りはジュース!」

「ジュースはクリスマスイブ・元日がんじつ宴会えんかい用」

「……」

御前おまえ健康けんこうのためだ」

「どうして?

 わたし、生理せいりが来るまえんじゃうんでしょ。

 いまだに犯人にねらわれてるって!」

如角しくすみさん、そんなことはありませんよ」

裏方うらかたさんはだまっててください!

 食事しょくじ制限せいげんするのは。

 たかくなって、ふとって、幼児ようじ体型たいけいじゃ無くなるから?

 わたしはおとりじゃない!」

「また、はじめのころもどるのか?

 御前は一年生じゃない。

 四年生なんだぞ!

 たかがアイス一個いっこで!

 御前は小学一年生に戻るのか!」

 ひょっとこのおじさんはディッシャーをしまって、アイスクリームのはいったバットをって、教室から退たい室していく。

 そんな……。

 そんなことって、ある?

 あとは、食べるだけなのに。

 ひどいよ!


「……死ぬって、わかってるのにさ。

 なんで、授業じゅぎょうけなくちゃいけないの?

 やくたない勉強べんきょうばっかり。

 ものかないから、計算けいさん問題もんだい必要ひつようないって。紅葉もみじさん、わらってた」

めたやつはどうでもい」

「わたしはマダガスカルにけない。

 パスポートも発行はっこう出来ない。

 おとうさんおかあさんがどこにるかもらない」

「ご両親りょうしんから手紙てがみとどいているだろうが。

 返事へんじ、来てるだろ。

 イライラするな、とは言わない。

 でもな。

 大切たいせつおもってくれているご両親をめるな」


 すわっていた椅子いすばされそうになって、わたしはいそいでせきからち上がって。教室のうしろのドアがわはしる。

て、安和あんわ

 くすり使つかわない。

 約束やくそくしただろ!」

 ボスではなく、最近さいきんよくぐようになったしん入り裏方さんのウッド調ちょうにおい。整髪料せいはつりょうか、香水こうすい汗臭あせくさくは無いけれど。

 ムチムチ筋肉質きんにくしつボディーに羽交はがめにされて、ゆかたおされて。

 さらに、臭いがつよく鼻の穴に入って来る。

「桂川先生。

 今日のお子さんは、今年ことし一番イライラと安がたかまりぎています。

 証言しょうげん能力のうりょく完全かんぜんうしなうくらいなら、すこしのあいだねむっていただきます」

「やだ……いえかえる」

「如角さん。

 貴方あなたはおめんはずさず、前の無い学校にいるんです。

 神域しんいきそとのことは、気になさらないでください」

「いや!!!」

 一瞬いっしゅんすきは、注射ちゅうしゃちやすいように右腕みぎうでひだり腕をよりつよていしようとしたときだった。

 おもいっきり、ウッド調の臭いのお兄さんのあごたたいて、ひるませた。

 そして、つけていたお面を外して、注射器を持った裏方さんにげつけた。

「校ないでお面を外したのですから、静脈じょうみゃく注射をします」

 あっ、こっちの注射器はにせ物か。

 くびたれるなんて……。


 しかも。

 そんなの。

 そんなの、後付あとづけじゃん。

 お面を外さなくたって、注射するくせに。

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