2 年賀状は教室でプリント!


 ◇◇◇


 おとうさんおかあさんへ


 お手紙てがみとどきました。

 ありがとう。

 お元気げんきですか?


 ◇◇◇


 最近さいきん

 このはじまりの三行さんぎょうが「定型文ていけいぶんになっているから」という理由りゆうで、「なおそう」とわれる。

 そう。

 注意ちゅういされた。

間違まちがってはいないけれど。

 よりただしいこたえをさがすべきだ」って、桂川かつらがわ先生せんせいは言った。



 つき一度いちど

 国語こくご授業じゅぎょうあまった時間じかんで、お手紙を書いている。

 最初さいしょ十分じゅっぷんとか、十分でスラスラ書けなかったけれど。いまたりさわりのない、小学しょうがく年生ねんせいっぽい普通ふつうの手紙がけるようになった。

 でも、今月こんげつ師走しわす

 だから、今日きょうの二時間の国語をはやめにげて、お正月しょうがつよう年賀ねんがじょうを書く。

 そうおもったけれど。

 年賀状づくりはするけれど、黒板こくばんには「年賀状は教室きょうしつでプリント!」なんてしろいチョークで書かれてある。

 一時間目の図工ずこうの授業(冬休ふゆやすさん学期がっきの図工の先取さきどり)がわったら。

 休み時間ちゅうだけれど、桂川先生がノートパソコンと印刷いんさつほこりけのぬのはずしていた。

 年賀状は、教たくうえいてある「内部ないぶネット(イントラネット)状たいのコンピューター」と、そのよこにある印刷機をつなげて、年賀状デザインデータを出力しゅつりょくする。

 のこり時間は十分。


MADONOマドノの年賀状作成さくせいほんってもらったぞー」って言われても。

 もっとはやわたしてしかった。

 目次もくじよりもまえにある「ふくろとじ」をみたいなのはふうられていて、なかにはCDシーディー-ROMロムはいっている。

 ノートパソコンでCD-ROMをみこむと。

 本のページをめくればめくるほどならんでいる「ビジネス用」とか「フォーマル用」とか「カジュアル」とかの写真しゃしんおな画像がぞうデータが番号順ばんごうじゅんに並んでいる。

 そういうジャンルけされたデザインデータのどれかをえらべばい。

 昨年さくねん度は、図工の時間と国語の時間を駆使くしして、手きで頑張がんばったのに。

 十二月は彫刻刀ちょうこくとう作品さくひん制作せいさくに授業時間を使つかったから、仕方しかたい。


「手書きじゃ無いんですか?」

すこしはコンピューターにれろってさ」

 あっ、そういう理由もあるのか。

 スマホはほとんど動画どうがたり、辞書じしょわりに使っているもの。

 ましてや、パソコンなんて、どもは使わない。

 タブレットも授業で使うことはあまり無い。そういう電子でんし機器ききを使わなくても、マンツーマンの対面たいめん個人こじん授業をけているせいだ。


文字もじまでコンピューターでちこむの?

 手書きは無し?」

「そう。インクジェットでやるから、わないペンがあるんだ。

 三まいともおなじデザイン・文章ぶんしょうで良いから」

「こういう写真りの年賀状、家族かぞくがいないとさびしいですよね」

旅行りょこうきなひとはベストショット自慢じまん出来できる。

 あとは、旅行っぽく仕上しあげている人も恰好かっこう良いぞ」


「……干支えとは入れないのか?」

「そうですねー。

 富士山ふじさんのイラストに『しんけましておめでとうございます』の文章にゅう力して。文章はたて書きを選択せんたくして」


 今日にふさわしいはずのクリスマスツリーのけなかった。

 だって、これは年賀状。


 可愛かわいらしい干支えとが干支にせたゆきだるまのまえでポーズをしているデータを選びかけたけれど、やめた。

謹賀きんが新年」と「新年明けましておめでとうございます」のどちらにしようかまよったけれど。

 子どもらしく漢字かんじよん字は選ばず、「新年明けましておめでとうございます」にした。


「昨年末はした書き三枚、清書せいしょ三枚だったが。

 おれと、校ちょう先生と、ご両親りょうしんの三枚おなじデザインで印刷する。

 さあ、この本のりのための葉書はがきサイズの用紙をって、印刷機にセットしよう」

 桂川先生がポンポン指示しじす。

 わたしが印刷機に紙をセットして、ためし刷りを一度しようとしたら、プリンター設定せっていをイジり出して。

 もう、こうなったら、MADONOの本と契約けいやくしたイラストレーターさんと桂川先生のきょう作になっちゃう。


 富士山ふじさんのイラストもノイズ無しでキレイにれていた。

 もう、三枚年賀葉書を印刷機にセットして。

「三枚印刷」に数量すうりょう変更へんこうして、印刷開始かいし


 ガガガガガ。

 ペリッ。

 年賀状が上手うまく、印刷機の中にいこまれて、いよいよ印刷が始まる。


 ウィウィウィウィウィ。

 ウィーン。


 ガガガガガ。

 ペリッ。

 ウィウィウィウィウィ。

 ウィーン。


 ガガガガガ。

 ペリッ。

 ウィウィウィウィウィ。

 ウィーン。


書面しょめん」が無事ぶじ三枚とも、刷りがった。

 三枚のあては、宛さきの「郵便ゆうびんごう」と「住所じゅうしょ」を空欄くうらんにした。


 一枚目、「お父さま」「お母様」の連名れんめい。(これはあくまでもしょうだから、連名という言いかたは変なのかもしれない。)

 二枚目、「校長先生」。

 三枚目、「桂川 とう先生」。


 そして、わたしはお父さんとお母さんに手紙を使うさいに書く名「ひな」と送りぬしのスペースに書きこんだ。



 二時間目の国語の授業の三十分で出来上がった年賀状を、残りのニ十分しっかりかわかして。

 中休み時間になってから。

 一階の校長室前の、校長先生が自作したポストに年賀状を投函とうかんした。


 明日あしたまでに投函すれば、元日がんじつとどきやすいんだって。

 いま異常いじょう気象きしょうとか新年配達はいたつする人手ひとでりないから、「きちんと届く」っていうのが言えないところもある。

 そう。

 絶対ぜったいなんて、無い。

 それに。

 この名前なまえの無い学校にも、教いん住宅じゅうたくにも、郵便きょく員さんが来たことは一度も無い。

 わたしはこの年賀状でも、今まで投函して来た手紙でも、送り主には「ひな」の偽名を使って来た。


 返信へんしんはある。

 てば、る。

 お父さんとお母さんの名前はかれているか、あとで、読めなくされている。

 あと、お父さんとお母さんの書いた内容ないようがわたしがるべきでは無いことだった場合ばあいも。切り抜かれるか、焦げ跡かのどちらか。

 でも、仕方がない。

 だって、だい事件じけん被害ひがい児童じどうとその家族かぞくは、犯人はんにんころされた。

 わたしがここにかくされているのも、第四事件の悲劇ひげきかえさないため。

 慢しなくちゃいけない。

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