ぼんぼり

1℃ 国語「手紙を書こう」（X年度2学期12月24日～12月25日、冬休み、3学期1月15日～2月10日）

1 クリスマスがやって来る

　十二（じゅうに）月（がつ）二十四（よっ）日（か）火曜（かよう）日（び）。

　残念（ざんねん）ながら、本当（ほんとう）に残念ながら。今年（ことし）のクリスマスは平日（へいじつ）。

　昨日（きのう）二十三（さん）日（にち）、梅子（うめこ）さんが録画（ろくが）データを用意（ようい）してくれていたテレビのニュース（一昨日（おととい）の二十二日放送分）では。「今日（きょう）やります」ってインタビューに答（こた）えていた人（ひと）もいた。

　土（ど）曜か日（にち）曜に、予約（よやく）していたクリスマスケーキを取（と）りに行（い）ったり、届（とど）けてもらったりしたんだろうな。

　ピザ。

　チキン。

　オードブル。

　ジュース。（大人（おとな）はお酒（さけ）。）

　あと。

　日本（にっぽん）の多（おお）くの子どもたちは「サンタさんが来（き）てくれる」のを期待（きたい）している。

　サンタさんが来てくれたら、家（いえ）のどこかにクリスマスプレゼントがあるってことだ。

　夜中（よなか）に来（く）るから、起（お）きていられないけど。

　まあ、新興（しんこう）宗教（しゅうきょう）とか、戒律（かいりつ）が厳（きび）しい宗教とかの家庭（かてい）には。クリスマスツリーも、サンタのイラストも、「Merry（メリー） Christmas（クリスマス）」のチョコレートプレートがのったクリスマスケーキなんかも、駄目（だめ）。

　でも。

　わたしのところに、サンタさんは来てくれない。

　ここは神隠（かみかく）しの神域（しんいき）。

　プレゼントは無（な）いけれど、梅子さんが温（あたた）かい料理（りょうり）を作（つく）ってくれる……はず。

　わたしだって、餅（もち）つき交流会（こうりゅうかい）以外（いがい）、何（なに）もイベントが無くて、つまらなくて。

　昨日は自分（じぶん）の部屋（へや）でクリスマスの動（どう）画を漁（あさ）ってた。

　イルミネーションもキレイだけれど。

　東京（とうきょう）のビルやデパートにあるクリスマスツリー展示（てんじ）の動画が一番（いちばん）良（よ）かった。

　東京なんて行（い）ったことは無いのに。

　真（ま）っ暗（くら）な空（そら）に、高層（こうそう）ビルの明（あ）かり。

　そして、キラキラ光（ひか）るクリスマスツリー。

　黄金（おうごん）色（いろ）。

　真っ赤（か）。

　白（しろ）いツリーに銀（ぎん）色や水（みず）色の飾（かざ）り。

　緑（みどり）のクリスマスツリーはオーソドックスだけれど、太（ふと）い幅（はば）のリボンが螺旋（らせん）に巻（ま）いてあって、お洒落（しゃれ）だった。

　でも。

　赤（あか）ちゃんの頭（あたま）くらいの大（おお）きさの黄金色のオーナメントは。あれは、少（すこ）し怖（こわ）いと思（おも）った。

　変（へん）なことを思い出しながら、朝（あさ）の学級（がっきゅう）活（かつ）動が始（はじ）まった。

「やったー冬休（ふゆやす）みだー」なんて、ふざけてみせた。

「まだ、残（のこ）り一（いち）日残（のこ）ってる。

　明日（あした）が終業式（しゅうぎょうしき）だ。

　……嬉（うれ）しそうじゃないな」

　ギクリ。

　終業式の日でも無いのにネクタイをしている桂川（かつらがわ）先生（せんせい）。

　監査（かんさ）が入（はい）ってから、ジャージを着（き）る日は体育（たいいく）の日だけになった。

「年末（ねんまつ）年始（し）も忙（いそが）しいです。わかってますよ。

　始業式が終（お）わったら、餅つき交流会スタートです。

　今日中（じゅう）に、教室（きょうしつ）の大（おお）掃除（そうじ）をしないといけないんですよね」

「焦（あせ）らなくても大丈夫だ。

　校舎（こうしゃ）内（ない）の大掃除と、床（ゆか）のワックスがけ。全部（ぜんぶ）、裏方（うらかた）さんがやってくれる」

「桂川先生は、帰省（きせい）しないんですか？

　一年に一回（いっかい）、『明（あ）かりの日』しか神域の外（そと）に出（で）ませんよね」

「私（わたし）は裏方（うらかた）さんたち同様（どうよう）、家族（かぞく）がいないに等（ひと）しいんだ。

　……如角（しくすみ）。

　何（なに）か、思い出したのか？」

「桂川先生。

　最近（さいきん）、そればっかりですよ」

「怖い夢（ゆめ）を見（み）たんだろ？

　薬（くすり）が必要（ひつよう）なら、ちゃんと飲（の）むべきだ」

「……ああいう薬を飲んでも、眠気（ねむけ）だけで寝（ね）れないんです。

　それに、誰（だれ）かと話（はなし）をしていた方が思い出さなくて楽が出来ます」

　昨日中（なか）休みに胴体（どうたい）でしょ。

　そして、昼（ひる）休みに追加（ついか）で作（つく）った頭部（とうぶ）。

　その二段（だん）予定だった雪（ゆき）だるまは、上下（じょうげ）に連結（れんけつ）させる前（まえ）に。自分（じぶん）でミニダンプのブレードをグサグサ刺（さ）して、崩（くず）して壊（こわ）した。

　陰謀論（いんぼうろん）の本に、「軍事（ぐんじ）衛星（えいせい）から地（ち）上を覗（のぞ）き見（み）するのは簡単（かんたん）」みたいなことが書（か）かれてあった。

　もし、ここに子どもがいる痕跡（こんせき）を発見（はっけん）されたら。わたしはここに居（い）られなくなる。

　外遊（そとあそ）びを校長（ちょう）先生にも、裏方さんのボスにも、すすめられたけれど。

　グシャグシャにしてやった。

　シャンシャンシャンシャン。

　鈴（すず）の音（おと）が朝っぱらから聞（き）こえる。

「公立（こうりつ）小学校は行政（ぎょうせい）の施設（しせつ）。

　だから、政（せい）教分離（り）。

　クリスマスを大々的（だいだいてき）にお祝（いわい）いしちゃいけない。

　お子さんが我慢（がまん）しているのに、御前（おまえ）たちが浮（う）かれてどうする！」なんて、ボスの怒鳴（どな）り声（ごえ）が聞（き）こえても、もうビックリしたない。

　慣（な）れちゃった。

「それじゃあ、朝の学級活動のおしまいの号令（ごうれい）をよろしく頼（たの）む」

「えー？

　もう、時間（じかん）が経（た）っちゃってますよ。

　このまま、一時間目の授（じゅ）業で良（い）いと思います」

「ほら、面倒臭（めんどうくさ）がらない」

「……これでー、朝のー学級活動をー終ーわーりーますっ。

　気をつけ礼（れい）」

　ペコリと頭（あたま）を下（さ）げた。

　紅葉（もみじ）さんなら、ボスに怒鳴られてもクリスマスキャロルを楽（たの）しそうに歌（うた）ってくれるだろうな。

　でも、紅葉さんは戻（もど）って来ていない。

　本当に、ここの裏方の仕事（しごと）を辞（や）めたんだ。

　今年のクリスマスイブはちょっとさびしい感（かん）じだな。