4 描くのと彫るのは違うんだ

 あのあと

 いたへのうつしがわってから。二十にじゅっぷんくらい時間じかんあまったので、校長こうちょう先生せんせい彫刻ちょうこくとう使つかかたおしえてもらった。


 ためり。

 彫刻刀の練習れんしゅうはお料理りょうり包丁ほうちょうよりはかるい。

 でも、手前てまえから正面しょうめんおくすすめる彫刻刀は、「けずる」作業さぎょうというかんじ。

 動作どうさとはちがった、うごきに違和いわかんがある。


 あさく彫ろうとすると、はいってかない。の板にきずをつけることが出来できない。

 かといって、つよちかられすぎると、ふかく木の板を削ってしまう。


 彫るところは、木版こくはんの「しろ部分ぶぶん

 くろいろしたい場合ばあいは、のこさなくちゃいけない。

 でも、っすぐなふとせんのはずが。ネズミにかじられたように、貧相ひんそうなガリガリのなみ線になってしまう。

 プロはまよいなく、適度てきどな力で、スッスッと上手じょうず一発いっぱつで深く彫って行く。


 こんな初心しょしん者のわたしに、どんな木版画が出来できるだろうか……。



 心ぱいしいの桂川かつらがわ先生は、わたしが中休なかやすみや昼休みに、彫刻刀で勝手かってあそばないようにしたがって。

 授業じゅぎょうわると、彫刻刀セットを没収ぼっしゅうされてしまった。

 でも。

「……あれ?」

 つぎの図工の授業は、もく曜の五時間目。

 それまでは、彫刻刀も板も使わない。

 つくえに出しっぱなしの状態じょうたいだった板をわきかかえて、教室のたなこうとしてやめた。

 板のがらをじーっと見つめていると、何か変なことに気がつく。

 おかしい。

 雛飾ひなかざりのぼんぼりを題材にしているのに、これじゃあ、提灯ちょうちんあしえたみたい。妖怪ようかい絵「提灯おけ」なんて作る気は無いのに。

 何かがりない。






 嗚呼、かりがいていないんだ。





 一時間目と二時間目の間の休み時間は五分。

 机に戻って、筆箱ふでばこから鉛筆をいっり出して、いそいで、ぼんぼりが内側うちがわからポワポワあたたかくひかっているように。モコモコしたくものような、綿飴わたあめのような、ヒツジのようなきょく線を書き足した。


 ピンク色に光らないのが残念。

 あのときは、光ったのに。

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