3 木版画に挑戦!

 十二じゅうにがつとおよういち時間じかんこう」。

 のついているであろう彫刻ちょうこくとうえてしまった。

 もう、わたしの手元てもとにはもどってないのはたしかだ。

 いまつくえうえにあるのは、あたらしい、「本格的ほんかくてきな彫刻刀」。

 六本ろっぽんり。

 まえのとちがって、木製もくせい、ミニいしき。



 ねんくみ教室きょうしつ黒板こくばんには。

 校長こうちょう先生せんせい事前じぜん補助ほじょ教材きょうざいとして印刷いんさつしてくれた、「ネット画像がぞう検索けんさく」でおすすめ表示ひょうじされた画像まいってある。

 まあ、のりけではなく、印刷ぶつの四つかどをマグネットで固定こていしているだけ。

 ネット検索から印刷しただけだから、画像のおおきさは全部ぜんぶバラバラ。

 小学しょうがっ校の木版もくはん作品さくひんならぶときは、たいていおなじサイズになるけれど。仕方しかたいよね。ここは、公式こうしきりんかい校した児童じどうすう一人ひとりだけの学校だもん。


 一枚は、植物しょくぶつ朝顔アサガオ

 二枚目は、むし蜻蛉トンボ

 さん枚目は、「リコーダーをいているおとこ」。

 よん枚目は、「自分じぶん部屋へや勉強べんきょうづくえ」。あっ、すみ地球ちきゅうがある。

 五枚目は、マルばかりの模様もようとシャボンだまのときに使つかう、吹く道具どうぐ


 五枚の版画を見くらべてみる。

「リコーダーを吹いている男の子」は、……ざつでは無いけど。嗚呼ああ、男の子がつくった作品だってわかる。こんなの、おんなの子がだい材にしたら、女の子のあだ名は「ゴリラ」とか「ブタ」になりそう。

 版画の中の男の子の顔面がんめんは、ちからづよ眉毛まゆげとギョロ目。

 リコーダーのあなふざいでいるゆび関節かんせつのゴツゴツしたかんじと。リコーダーの黒い部分と、手のしろい部分が際立きわだっていた。


 小学生の図工の授業でやる木版画だもん。水彩すいさい画みたいにたくさんのいろ使つかえない。黒一色いっしょくり。

 だから、どこを黒色にするか、どこを白にするか。

 ひろれば彫るだけ、白色のスペースがえる。

 でも、ここはお面の子どもが通う学校。

「自画像は目」というおたっしがあったせいで、わたしは自分をふくめた人間以外をモチーフにしなくちゃいけなかった。

 じゃあ、何で、人をモチーフにした見本を黒板に貼るんだろう……。


 犯人はんにんかおでも再現さいげんしてやろうか。

 あのおばさんが来て、ちょっとイライラして、そんなことも思ったけれど。

 もう、小学校入学一か月後の五月から三年と……今、十二月だから、十二ひく五で、なな

 三年とななか月もまえのこと。

 木版画が犯人逮捕たいほにいずれひらかれる裁判さいばんで「しょう」にくわえられたら、ずかしい。



 桂川かつらがわ先生はあからさまにわたしの「下書したがきの鉛筆えんぴつ絵」を見ろして、ためいきをついた。

「これはキジです」

「見たこと、あるのか?」

「無いですよ。

 でも、動画検索で、雉のうごいているところはました。

 画像検索でも、雉のイラスト、見ました」

「これから、下書きか?

 十二月いっぱいで刷る作業まで出来そうか?今週中に下書きやって、うすい板に絵をうつすんだぞ」

「出来ます!」

「無理するな。彫刻作業がらくそうな、ゆきだるまなんか、どうだ?

 雉は……来年でも良いじゃ無いか」


「じゃあ、ぼんぼりにします。

 第二候補の下書きは出来ています。

 これを板に書き写します」


 桂川先生は、ボーッとしていたけれど。

「駄目だ!」と怒鳴どなり出した。

 ものすごく大きな声で。

 黒板をりょう手でバンバンたたいた。


 でも、駆けつけた校長先生が「しくすみさんがやってみたいデザインでやっていよ」と許可きょかしてくれた。

 桂川先生は、廊下ろうかに出て、うなだれてしまって。

 結局けっきょくのこり時間は校長先生が担任たんにん代行だいこうをしてくれた。

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