2℃ 彫刻刀(X年度2学期12月9日~12月19日)

1 緊急職員会議

 二日ふつか連続れんぞく前編ぜんぺん後編こうへんけて放送ほうそうされるはずだった。「風原かぜはら連続児童じどう猟奇りょうき殺害さつがい事件じけん」の報道ほうどう特集とくしゅう

 後編は、予定よていどおりだったら、つぎのはずが。

警察けいさつ・風原視聴しちょうしゃからの放送にかんするわせ」と「四通よんつう脅迫きょうはくじょう」への対応たいおうだい、放送を予定。

としけまで放送を延期えんきする」ことを発表はっぴょうした。


 そもそも。

 報道は、前編なんて、どうでもかったんだろう。

 テレビきょくは、後編について、なんかんでも報道特集として放送したいはずだ。

 第よん事件害者は、きていた。

 地方ちほうテレビ局のLエルSエスBビー社屋しゃおくで、くなった。

 そして、家族かぞく寒鉢かんばちころされていた。

 おんなばかりを殺していたのに、その家族まで殺したのか。

 べっ件か。

 いやいや、深町ふかまち しずくちゃんは、行方不明のままだった千葉ちば らいんちゃんがはいったスーツケースをってやって来た。


 じゃあ。

 何故なぜ犯人はんにんは第四事件被害者だけ、いっ皆殺みなごろしだったのか。

 たんなる、という言葉ことばあたまにつけたくはないが。小児しょうにせいざい者ではいのか。


 そして、この事件がテロとしてあつかわれる側面そくめんがある。ほかの殺人事件とべつの扱いをされてた。

 他の番組ばんぐみ動画どうが事件考察こうさつでは、「身体からだ一部いちぶ戦利せんりひんとして持っているかもしれない」まで推論すいろんしているものも見受みうけられる。


問題もんだいは!

 我々われわれ、『神隠かみかくし』をやっているがわからすれば。

 このいち連の事件の問題は、殺されたおんなの子たちの遺棄いきされた遺たいと遺体発見現場げんばには、何のがかりも無いということです!

 だから、『神隠し』をするしか無いのに。

 犯人に、ここの存在そんざいがバレるのも、時間の問題なんじゃないですか!」


 あさ学級がっきゅうかつ動がわってから、緊急きんきゅう職員しょくいん会議かいぎがずっとつづいていて。

 わたしは一人ひとりかい教室きょうしつ自習じしゅうしていたけれど。

来年らいねんほう作文さくぶん四十よんじゅうふんではき終わらなかったけれど。

 中休なかやすみ時間がはじまるまえには終わらせた。

 漢字かんじドリルも、計算けいさんドリルも、理科りかの問題も、社会の問題も終わってしまった。


 やることが何も無いので、いっ階の会議室へ報告ほうこくくことにしたけれど。

 校長こうちょう先生せんせい桂川かつらがわ先生、裏方うらかたさんが会議室ではなしこんでいる。

 こえあらげるのは、きっと、神域しんいきそとに家族がいる単身たんしん赴任ふにん中の裏方うらかたさんだろう。

 桂川先生のように、一年に一追悼ついとう式典しきてんで神域の外にてい度の、家族やしん族と疎遠そえんなのもめずらしい。

「自ぶんおやが死んでも、とむらえない。その覚悟かくごはあります!

 でも!

 あんな放送されたら、こまりますよ!」

 緊急職員会議も、最初さいしょはそういう内容ないようを話し合っていた。

 神域の中にいる大人おとなでさえ、怖がっている。

 あの放送は、犯人を見つけるため。

 そして、何かの理ゆうだまったままの目撃もくげき者たちに証言をおねがいするため。

 犯人を刺激しげきするかもしれない側面もあったけれど。

 まあ、今さら悩んでも方無い。

 あとは、そなえるだけ。



 つぎの議題は、図工すこう授業じゅぎょう内容について。

小学校しょうがっこうの図工で、ちょうこくとう使つかったはん制作せいさくもく彫はたりまえです。

 小学校さん年生からんで、毎年まいとしあきふゆに作ひんを作ります。

 何故、しくすみさんは四年生になっても、彫刻刀を使用しようしていないのでしょうか?」

「それはどこの部署ぶしょから?」

かん部からです」

「監査部はよほど、小学生にご興味きょうみがおありのようですね」

 おや、おや。

 きょう住宅じゅうたく担当たんとう佐藤さとう 梅子うめこさんのこえも聞こえる。

包丁ほうちょうの使い方も、お上手じょうずになりましたよ。

 抜粋ばっすいされたぼう犯カメラ映像をながめるだけ、あたりさわりの無いの報告書をむだけの方々かたがたに。あのおさまの何がわかるのでしょうね」と、梅子さんがどうやら、わたしの「華麗かれいなる包丁さばき」を評価ひょうかしてくれている。

 まあ、実際じっさいは。にんじんのらんりとか、大根だいこんのいちょう切りとか。じゃがいもの皮剥かわむき程度だけれどね。


「如角さんには、閉鎖的なくう間でまなばせています。

 しかし、カリキュラムに制限をなるべくもうけないこと。

 ルールは守っていただかないと、こまります」

 どうやら、学校職員と裏方さん以外いがいの「監査の人」も会議室の中にいるようだ。いや、リモート会議で、参加かな。なまの声っぽくない。

一昨年おととし、如角さんは彫刻刀をいやがりました。

 パニックをこした。そう報告書にありました。

 包丁も、子ども用のセラミック包丁。

 らい年度から家庭科調ちょう実習じっしゅう検討けんとうしていますが。和食わしょくのあんなバリバリ金属きんぞくな包丁を見たら、気ぜつしかねません。

 名前なまえがある小学校でも、苦手にがてな物は無理をさせない。

 もうすこし、如角さんに配慮はいりょなさってください」


 いつも、ふざけて、おちゃらける校長先生のつめたい、ねつのこもっていない言葉が聞こえ始める。

「……はいはい、わかりました。

 桂川先生。先週せんしゅうまつで、秋の水彩すいさい画が終わりました。

 こん週から、彫刻刀を使った版画をやってください」

「校長!

 監査部をないがしろになさるんですか?」とせっかく来てくれている(あるいはリモート参加さんかの)監査部の人が声を荒げた。

 廊下ろうかまで聞こえる大声おおごえなんだもの。

 すこしどころか、全部聞いちゃった。


 気配けはいなく、じょ性の裏方さんがわたしのはい後にった。


「ごめんなさい。

 もう、題は終わっちゃった?」


 わたしはぶんぶんあたまたてることしか出来なかった。

 ちょっと、怖かった。

 裏方さんって、気配ちをするときがあるんだもん。

 ビックリした……。

「それじゃあ、職員室に、つい加の課題を取りに行こうね」

 あっ、紅葉もみじさんじゃない。

 この声は、にじ子さん。

 紅葉さんはすぐわたしと手をつなぎたかったけれど。虹子さんはわたしと手を繋がない。



 一階廊下には、校長先生のしん作と思われる陰干かげぼし中だった。

不穏ふおんな不審者か、っていけないマジシャンかしら?」

 まだ、絵具えのぐかわいていないにおいがきゅう食のにおいとざり合わないで、廊下にまっている。

あかマント怪人かいじん参上さんじょう!」というき出しを背負せおった怪人は、二メートルくらいの背。

 マジシャンが使うようなシルクハットみたいな帽子ぼうしに。

 全しんくろずくめの怪人がおもてが黒いマント、うら地が赤いマントを左右さゆうに広げている大きな絵。

 吸血きゅうけつのように青白あおじろい顔は見えない。

 背けい夕暮ゆうぐれが、虹子さんの言った通り「不穏なかんじ」を出していた。

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