3 豪華な給食

 十二じゅうにがつ六日むいか金曜きんよう給食きゅうしょく時間じかんがやってた。

 自校じこう給食で、においが校舎中しゃじゅうただよっていた。

 大量たいりょうものの匂いや調理ちょうり器具きぐ金属きんぞくっぽいにおいがしてるから、こいう匂いが苦手にがて大変たいへんだろうな。

 わたしは、小学しょうがっ一年生いちねんせいころから、わらず。おなかいてた。

 だけれど、今日きょうの匂いはしんじられなかった。

 だって、にく

 肉の匂いと、ニンニクの匂い。もう、絶対ぜったい美味おいしい。優勝ゆうしょう

 そして、のおし。この匂いは、汁物系しるものけいかな。


 今月こんげつ献立こんだては、まえつきの月末週まつしゅう発表はっぴょうになる。

 でも、なんだったっけ。

 とくに食べれない物が出ることは無いので、にしていなかった。


 給食の配膳はいぜんわって。

 給食がかりは、今日のメニューを発表しなくちゃいけない。

「今日の給食は……『和牛わぎゅうのステーキ、ガーリックライス、ポテトサラダ、キウイ、ワカメの味噌みそ汁、牛乳ぎゅうにゅう』です」

 だれもいない年一くみ教室きょうしつで、発表をませてしまった。

 かつらがわ先生せんせいは、四時間目かんめ授業じゅぎょうが終わった途端とたん職員しょくいん室へってしまって、十分じゅっぷんもどって来なかった。

「はい、日直にっちょくさん。号令ごうれい

姿せいただして、いただきます」

「はぁ……いただきます」

 あぶらがまだめていない。おさらうえのソースから牛肉の脂が分離ぶんりして、プカプカいている。

 ガーリックライスも、お味噌汁も、湯気ゆげっている。


「どうした?

 口内炎こうないえんでも出来て、いたむか?」

「そうじゃありません。

 普通ふつうの学校の給食、月額げつがく三千円さんぜんえんから四千よんせん円ですよね。

 今日の献立だけで、予算よさんオーバーです」

しょく士気しきたかめる」

自衛じえいたい南極なんきょく観測かんそくひとたちじゃ、あるまいし。

 まあ、ここはりく孤島ことうですけど」

「いらないなら、おれが食べてやるぞ」

「食べます」

 それにしても。

 桂川先生にうばわれかけた、どうても国産こくさん和牛ステーキ。

 このまま一まいステーキを、おはしはさんでげて、むかぐちか。

 フォークにして持ち上げて、迎え口か。




 カランッカランッ。




「ナイフとフォーク?」

 学校給食。

 それは、使つかいまわしの食器しょっきと、お箸、銀色ぎんいろのスプーン、銀色のフォークで食べなければならない。

 桂川先生いわく「けい劣化れっか」。きずもある。へこみもある。

 わたしはそこまで潔癖けっぺきしょうでもいし、「煮沸しゃふつ消毒しょうどく」してるんだって。


 桂川先生がポンと、わたしのまえにも、自分じぶんの目の前にも、ナイフをいた。

 ステーキようおもわれる、のギザギザ。直せつその分をさわるのはえい生だから、の部分をつかむ。

 フォークよりもおもい。


 まだまだあついままの牛肉ステーキにナイフをてると、ナイフがくもる。

 そして、いっ気にりこんでいく。

 グイグイグイグイ。

 毎夕まいゆう準備じゅんびに使うよく切れる包丁ほうちょうきょう住宅じゅうたくの備ひん芝刈しばかりに使うかまは、学校備品。どちらも、裏方うらかたさんたちがいしいでくれている。

 でも、このナイフは砥石で、どうこうなるような切れあじじゃない。

 のこぎりのように、あっちへり、こっちへ引っ張り。グイグイ切りこんでいく。


 ようやく、一口ひとくちサイズになったステーキを口にはこんだら。

 桂川先生が「いつもとわらないおしゃべり」のように、こんなはなしはじめた。

ちょうこくってってるか?」

「……チョーク?」

 もったいないけれど、お肉をむのをやめて、ゴクリとみこむ。

「チョ・ウ・コ・ク」

「あー、はい。

 彫刻ですね。

 校ちょう先生の美大びだい生時だいのお話に、彫刻のお勉強べんきょうをしている人のお話がありましたね。

 けずって、いろいろなかたちにする芸術げいじゅつです。

 学校のまえ不動ふどう明王みょうおうそんも、木造もくぞうですよね。くさらないように、なにってあって。

 でも、あのお不動さんの看板かんばんは、間違まちがいなく木ですね」

 桂川先生は。

 そのあとも、わたしが佐藤さとう 梅子うめこさんにおそわりながら、夕食準備を手伝てつだっていることについても質問しつもんして来た。


 せっかくのステーキをたのしんだのは、わたしだけだった。

 桂川先生は、わたしの話のき手になって。

 ステーキが冷め切るまで、けっして手をつけなかった。

 今日は、給食時間がはじまって、四十分も話していた。


 わたしが食器を配膳だいもどして、あと片付かたづけがわったあと。普通なら、教室を出たちかくの廊下ろうかに配膳台を放置ほうちする。

 昼休ひるやすみが始まると、裏方さんが配膳台ごと給食関連かんれんのものを片付けてくれる。

 でも、給食時間は長くても十五分間なのに。

 それを二十五分もオーバーしたのに、裏方さんのだれも、様子ようすを見にも来なかった。


 ごうな給食。

 今日はいつもと違うのは、それだけでは無かったということ。

 桂川先生も、裏方さんも、へんだった。

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