観測14 『情動の坩堝』


 二〇三三年八月五日、一四時二五分、ダイラム商業区某所。


「これは……」


 僕は代表から渡された新しい制服や鍵、そしてアマルタの剣を持って、あねさんを肩に乗せながら商業区へと足を運んでいた。

 そこに広がっていたのは、僕が想像していた街の光景とは酷くかけ離れていたものだった。


「はあ~人多すぎ。これじゃあ明日のテスト勉強できそうにないな」

「なんでも、昨日商業区は大惨事だったらしいな? なんかよくわからん冒涜師が暴れたんだってよ」

「よりにもよってダイラムに攻めてくるなんてただのバカじゃん」

「まあ、どうせ今回も冒険士がすぐに鎮圧してくれるから、大丈夫でしょ。少し前にきた五大死獣に比べたら、こんなの大したことないない」

「まあ、そうだよな~」


 これから一万もの大群が攻めてくると宣言されたにも関わらず、街の雰囲気は不安や恐怖で染められていなかった。

それどころか、全員が気の緩んだ顔でぼーっと呆けたような顔をしながら、避難先の地下都市へ向かうための列へと並んでいた。

 中には列にすら並ぶことなく、普段通り商売に明け暮れる者の姿さえあった。


「なんか思ってたのと違うね……」

「これがこの街がもっとも平和であることを象徴する光景だからね。もし、今回みたいなことが他国で起こっていたなら、お前さんが想像してた光景だったと思うよ?」

 

 世界で最も平和な街。ダイラムは世界中からそう揶揄されていると聞いてはいたが、まさかここまでだとは思わなかった。あまりに気が緩みすぎている。

 昨日の殺伐とした街の印象と正反対すぎて、知らない土地にやってきたのかと錯覚させられるほどだった。

 普段の光景と同じにも関わらず、ここまで違和感を感じるのはきっと、昨日の惨劇を経験していたからだ。


「――おやおや、そこにいらっしゃるのは、もしかしてハイトさんですか!?」


 街の空気に飲まれたせいか呆然としていると、突然後ろから名前を呼ばれた。


「リュズベルさん……?」

「あがががっ――よかった!! ダイナマイトを抱えて自爆したって聞いていたから心配で心配で……お怪我の方はもう大丈夫なんですか?」


 そこにいたのは、普段のエプロン姿と違い、学者らしい動きやすそうな服を身に着けたリュズベルだった。

 相変わらず僕と話すときだけ、最初に意味の分からないことを口走っていた。


「ええ、ばっちり怪我も完治したんで大丈夫です」

「おおっ、元気そうで何よりです。エリシアさんから話を聞いたときは、ワタシ血の気がばっさり引いたんですからね? もうそんな危ない真似はしないでくださいよ?」


 僕の姿を見て、興奮するように早口で話すリュズベル。僕の手を掴んで本物かどうか確認するように、ねっとりと指を絡ませてきた。どうやら、相当心配してくれていたらしい。


「……すみません、次からは気をつけるようにします」

「ええ、ぜひとも、そうしてください!! ハイトさんのような将来有望な冒険士がいなくなるなんて、もったいなさすぎてワタシには耐えられないですし、そもそもワタシの作る料理をいつも綺麗に平らげてくれるハイトさんがいなくなるなんて、ワタシからすれば、この世の終わりみたいなものなんですよっ!?」

「は、はい、分かりました!!」

「……コイツもずいぶんな色物だね」


 それはまさしくマシンガントーク。有無をも言わさぬ迅速な速さでまくし立てられ、身体が数歩後ろへと下がる。その勢いで誰か殺せるんじゃないかと思うほど圧が凄かった。


「それでハイトさんはどうしてここに? ワタシの見立てから察するに、先ほど意識を取り戻したばかりなのでしょう? 肉体が弾け飛ぶなんて誰も経験したことのないことなのですから、安静にしておいた方がいいと愚考しますが?」

「……いえ、本当に身体の調子はいいので大丈夫ですよ。むしろ元気が有り余ってしまい困ってるくらいですよ」

「そうですか、ならいいのですが、本当にお身体は大事になさってくださいね?」

「…………ええ、ありがとうございます」


 リュズベルの心の底から心配するような瞳が僕を射貫く。

 それは紛れもなく僕のことをおもんばかっていることが理解できた。


 ――僕を大事に思ってくれる人もいるんだ。


 それを知れたことがどうしようもないくらい嬉しかった。


「――あれ、ハイトお兄ちゃん?」


 リュズベルと話していると、今度は右の方から僕を呼ぶ声がした。


「マコ、無事で――」

「ハイトお兄ちゃん――っ!!」


 声の主に返事を返そうとした瞬間、その主は僕に向かって思い切り飛び込んできた。それを察知したようにあねさんは僕の肩から地面へ降りて行った。


「お兄ちゃん、元通りに戻ったんだっ!! あんなに身体がぐちゃぐちゃだったのに戻れたんだ。本当によかっだ……!!」


 マコは僕の胸の中で涙声になって身体中を震わせていた。思いがけない再会に僕の胸が喜びで満ち溢れる。僕はすぐさま彼女を強く抱きしめた。


「ごめ――いや、ありがとう、心配してくれて。マコはあの後大丈夫だった?」

「うんっ!! エリシアお姉ちゃんが包帯さんから守ってくれたから」

「そっか、それならよかった」


 抱きしめるのをやめ、マコの顔が見える位置で微笑む。マコはその体の都合上パッと見では、表情の変化が分かりにくい。でも、彼女の纏う雰囲気が不安から安堵へと切り替わったのを肌身で感じることはできた。


 ――人と人が理解しあうのに容姿なんて関係ない。大事なのは相手を知ろうとする心だ。


 目に見えるものだけでその本質を理解できるのなら、心は不要なものになる。


 僕はマコに出会えたことでそれを知ることができた。


「マコもここに避難しにきたの? そういえばお母さんがいるって言ってなかった?」

「うん。でも……」


 お母さんという言葉に反応して、マコが頭をシュンと下げた。


「おかあさん、身体の調子がよくなくて、ベッドから出れないの……。ワタシの力じゃどうにもできないから、誰か助けを呼んできてっておかあさんに頼まれて」


 マコは再び全身を震わせる。そこから感じるのは怯えだった。怖いものから逃げたいのに逃げれない恐怖をこらえるための震えだった。

 僕はそこでなんと返事を返そうか思考する。

 これは非常に重要な問いであることを無意識的に理解した。


「――じゃあ、僕が助けに行くからお家の場所だけ教えてよ。そしたらお母さんは僕が連れていく。マコは先にいって僕とお母さんを迎える準備をしていてくれ。――一緒に行くから安心して」


「――!! うん……!!」


 身体の震えがゆっくりと消えていくのを感じる。

 どうやら安心してくれたらしい。でも、それで完全に理解してしまった。


 ――マコはお母さんに怯えている。


「ハイトさん、そちらの方は……」


 事情を知らないリュズベルが怪しげな顔をマコに向ける。僕はマコを知っているからこうしてすぐに分かったが、知らない人から見れば、フードのついた擦り切れたボロボロの服を着た怪しげな人物にしか見えないからだ。


「ああ……すみません。この子は僕の知り合いです。昨日のいざこざのときにはぐれたきり、会えてなかったんですよ」

「……そうですか、それはよか――っ!?」


 僕らの元へ近づいてこようとしていたリュズベルの脚が停止する。リュズベルは明らかマコの方を見て脚を止めた。しまった、僕が気にしていないとはいえ、リュズベルが『別人』を嫌っている可能性は十分にある。もしかすると、フードに隠れたマコの容姿が見えて驚いたのかもしれない。


「ハイトさん、お連れの方!! 今すぐここを離れましょう!! 早く!!」

「「え?」」


 しかしリュズベルの反応は怯えといったようなものではなかった。

 急かすように口調を早めるリュズベルに違和感を感じながらも、僕は何か嫌な視線がこちらに伸びていることに気づいた。


 ――ソノバカラハナレロ。


「――っ!!」


 後ろから何かが風を切り裂きながらやってくる。

 それは明らかに僕とマコを狙ったものだった。

 僕はすぐさまソレから逃れるためにその場からマコを抱きかかえて転がった。


「ひっ――!!」


 マコの口から小さな悲鳴が漏れる。

 僕は転がってすぐさま起き上がり、先ほどまで後ろだった方へ目を向ける。


「がああああああああああ!!」


 そこには目を赤く血走らせながら、一本のナイフをこちらに向けている一人の男がいた。

 男は逃げた僕らを追いかけるようにナイフを振り上げる。


 ――アシデフウジロ。


「――はぁ!!」


 しかしその振り方は素人そのものでただ乱暴におもちゃを振り回して遊ぶ子供のようだった。

 乱雑な軌道で空を切るナイフは隙だらけで、容易に弾くことができる。

 僕はナイフ目がけて脚を振った。


「ギッ!?」


 ナイフを弾き飛ばされたことで男の体制が崩れる。僕はすかさず男を組み伏せ、その場から動けないよう拘束した。


「離せよクソヤロウ!! なんでおれを捕まえてんだよバケモノ殺せねえだろーが!!」


 拘束した男は怒り狂いながら僕に向けて罵倒を吐く。


「当たり前だろ!! 人にナイフ向けるやつを捕まえるのは!! それにあそこにいるのは旧獣じゃなくて人間だ!!」

「何言ってやがる!! 目玉が腐ってんのか!? ありゃどう見てもバケモノだろうが!! 昨日みたおぞましい奴らにそっくりだ!!」


 男は力一杯、マコを『バケモノ』だと罵った。


「ソコにいるバケモノに昨日、おれの愛する人を殺した!! 絶対にゆるざねェ!! ころすころすコロスッ!! おまえ冒険士だろ!! なんでバケモノ庇ってんだよ!! バケモノを殺すのがおまえの仕事だろーが!! この手離せよ、てめェがやらねェならオレがヤル!!」


 憐れなる『居残り』の悲痛な怒りが街の轟く。昨日の昼と同じような光景が再び繰り返された。


 ――じゃあ、直接あのガキが今後どうなるか教えてやるよ。


「―――ッ!!」


 その時、脳裏にあの男の言葉が反響した。


「死体すら残らなかった!! 別れすら告げられなかった!!」


 ――次の日にでもなれば、オマエの優しさのせいで警戒せずに街を歩くんだろうな。


「家ぼろぼろに破壊され、アイツとの思い出の品は全部なくなった」


 ――それで油断して、さっきの居残りババアみたいな塵芥どもに絡まれる。


「わかるか!? オマエらみたいな気持ちわりぃバケモノに一夜で、このクソみたいな世界でようやく掴むことができた人生のすべてを奪われたおれの気持ちがッ!!」


 ――オマエの言葉通り、話しあって自分を理解してもらおうにも、相手は聞く耳を持たず、ガキをバケモノだと捲し立てる。


「明日は結婚一年目の記念日だったんだぞ!! 明日を盛り上げようと二人で準備したっていうのに、オマエらはそんなささやかな幸せすら奪うのかよォォォォォォォ!!」


 ――そして昨日のアレは気持ちのいい夢や幻だとと思い知らされ、絶望するんだ。



「だまれええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」



 ――我慢の限界だった。



「お前が化け物、化け物って叫んでるのは旧獣じゃねぇって言ってるだろうが!!」


 口が勝ってに動いていた。


「あの子はお前と同じ普通の人間だ!! お前と同じ傷つく心を持った人間なんだよ!!」


 思考も全くしていなかった。


「お前と同じで心すら持ち合わせていない化け物に家族を殺された人間なんだよ!!」


 あれ以上聞いていたら、もう狂ってしまいそうだったから。


「奪われて取り残されたやつの気持ちが分かるくせに、てめえがあのクソどもと同じことやってんじゃねえええええええええええええええええええええええええええ!!」


 頼むからもう黙っててくれ、じゃないと僕はお前を―――――――。


「――なんなんだよオマエはあああああああああああああああああああああああ!!」


 あ――――――。


「さっきからなんなんだよオマエ!! バケモノを人間扱いして何がやりたいんだ!!」


 ――――――。


「どうせオマエは何も失ってないんだろ? 奪われてないから、そうやっておれの邪魔するんだな!!」


 ―――それはやめてくれ。


「邪魔者は引っ込んでろよカス!! 目の前で大切なものを喪ったこともないくせに、自分だけイイ子ちゃんぶってんじゃねえええええええええええええええええええ!!」


「あ――――――」


 ――――それだけは、言わないで――――。


 その瞬間、野次馬から何者かが飛び出し、男を殴り飛ばした。


「それ以上その人を馬鹿にすんじゃねええええええええええ!!」


 それは見覚えのある男性だった。

 茶髪に黄色の瞳を持った褐色肌の童顔。

 忘れもしない、昨日旧獣の神能の浮かされていたところを僕が受け止めた男性、リックだった。


「その人はなぁ!! 自分が今にも死にそうな重症になってでも、他人のために命を張れるすごい人なんだよ!! 見ず知らずの殺されそうになってるマヌケを死ぬ気で助けてくれる人なんだよ!!」


 暴徒と化した男に負けないぐらいの大声でリクヤは叫び、胸倉を掴んだ。


「この人はテメエみたいな泣きわめくことしかできない野郎と違って、大切なもんを守るために頑張れる人なんだよ!! 男のくせに守るって誓っただろう女を守る事すらできなかったテメエがけなしていい人じゃねえんだ!!」

「――――――!!」


 その一言が、今まで暴れるだけだった男の顔を歪ませた。


「それになぁ!! まだテメエにはやらなきゃいけない事が残ってるだろうがッ!!」

「そんなものない!! おれは全てを失った。もうこの世界で生きてる意味なんてなくなった!!」

「じゃあ嫁さんの墓は誰が作るんだよッ!!」


 暴徒の男は目を見開き、すぐさまその瞳に怒りを込めた。


「墓だと!? あれがどういうものかわかって言ってんのかオマエ!!」

「ああ、知ってるよ!! リバークのせいで墓が作れねぇ事なんて常識だからな!!」


 リバークとは目で視認することすら不可能な微生物と同じサイズの旧獣。

 リバークは腐敗した生物の屍骸を好み、見つけた瞬間それらに寄生する。そうなれば、五分もかけずにその屍骸を支配する生物への最悪の禁忌。死者への冒涜を行うこの世界で最も鬼畜な旧獣――それがリバーク。


「死体は骨まで焼かなきゃいけねぇから墓を作っても、何もないただの石ころでしかない!! そうしないと自分が墓を建てた大切な人がバケモノの仲間入りだからな!!」


 それは残された者にとって苦痛でしかない。愛していたのに、大切にしていたのにキチンとした形で弔ってやることもできない。墓とはその人が生きた証を刻む物でもある。

 だが、この世界では墓を建ててもその中に入るものは絶対にありえない。

 旧獣という外敵がいる以上、土地というものにはとんでもない莫大な価値がある。


 ――旧獣は人が人を想う行為ですら冒涜するのだ。

 

「意味のない、時間の無駄、人生の消費、そんな事は誰もがわかってんだよ!! でも、それでも、オマエの嫁さんが誰にも忘れられないようにしてあげれるのは、テメエだけなんだよッ!!」

「――――、――――ぁ」


 暴徒だった男が崩れ落ちる。溢れかえった感情を失い、何もない虚無へなり下がる。


「…………あなたの気持ちはよく理解できます」


 そんな男に声をかけ歩み寄ったのは、今の一部始終を見ていたリュズベルだった。


「死を認めるということは、すべてを喪ったことを認めること。今までのすべてが無駄になったということです。無駄は心の贅肉です。なぜなら次に進むかどうかを悩ませるからです」


 淡々とした不穏な優しい声が響き渡る。


「しかし人は無駄と向き合わなければなりません。そもそも生きること自体が苦しくて無駄なことだからです。そして生きるためには意味が必要です。つまり無駄と意味は同じもの。無駄は生きるための意味に変えることができるのです」


 リュズベルの纏う雰囲気はどこか得体のしれないナニカを感じさせるものだった。

 ここにいる全ての人たちがリュズベルに釘付けだった。


「ならば今のあなたに必要なことは無駄の中に隠れた生きる意味を探してみてください。全てを諦めるのは、それからでも遅くはありませんよ?」


 最後の一言で、リュズベル纏う雰囲気が元に戻った。

 そしてそれが栓だったかのように男はうつむきながら二つの指輪を取り出した。


「うそだうそだうそだそんなのありえないあいつがめれながしぬはずがないだってあしたはけっこんきねんびであいをちかいあったひでなんどもくりかえすとやくそくしたたいせつなひで――――――」


 男は指輪を見つめながら延々となにかを口にし続けた。リュズベルの語った無駄の中に隠れた生きる意味を探し始めたのだろう。


「やれやれさすがに目立ちすぎましたかね?」


 リュズベルは困ったように苦笑いした。


「ハイトさん、ひとまずここから離れてください。後のことはお任せを。これ以上ここにいるのはお連れの方にとってもよろしくないかと」

「……はい、そうします」


 少し反応が遅れたが、なんとか返事を返す。


「……ハイトお兄ちゃん。やっぱりお母さんのところには一緒にいこう……?」


 座り込んでいたマコは立ち上がって僕にそう提案する。だが、その身に纏っている雰囲気は先ほどに比べれば、驚くほど暗く沈んでいた。

 母親のこともあって、今の状態のマコを連れて行っていいのか迷う。


「――お願いお兄ちゃん、今は人がたくさんいるところに行きたくない」

「――っ!! ああ……たしかにそうだね」


 そうだ、いくら安全とはいえ、このまま地下都市に避難させてしまえば向こうでまた同じことが起きる。そうなれば、僕はマコを守れない。どの道、家の場所も聞かないといけないし、ちょうどいい。僕はマコの身体を持ち上げ、抱っこした。


「ハイトさん、でいいんですかね?」

「……はい」


 立ち去ろうとした直前、リクヤから声をかけられた。

 リクヤはそのまま流れるように僕に向かってお辞儀をした。


「昨日は助けてくださってありがとうございました。この御恩は一生忘れません。必ずなにかお返しします」

「……気にしなくていいですよ。先ほどのことで十分救われました。本当にありがとうございます…………それじゃあ、僕らは先を急ぐので――」

「――いや、オマエラはもう、ここでラクになっとけよ」


 突然のことだ。胸の奥が暖かくなって、変な脱力感が体全体を支配した。


 ――ヨケロ!!


「――――あ?」


 すぐさま体を動かそうとしたが動かなかった。それは僕自身が不具合を起こしたように一秒だけラグが生まれた。

 ふと、なぜか人混みが目が入った。そこに明らかに可笑しい怪しげに輝く二つの瞳がった。

 ――身体中に包帯を巻いた男が、真っ赤な髪に黒いキャップを被った青年の横にいた。


「…………え?」


 心の中で思ったことが声になって、重なった。なんだかアツくてキモチワルい。

 おなかに異物が差し込まれてぐちゃぐちゃにかき混ぜられたみたいだった。


「―――マコ……?」


 抱きかかえていたはずのマコがやけに重く感じた。ぐったりとしてピクリとも動かなくて、赤い水でびちゃびちゃになって体に何かがサシコマレテイテイキヲシテイナクテツメタメニヒカリガナクテ――――あぁ………………。


 ――いっしょになかよくからだがまっぷったつになってまこだけしんだ。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 だれかのひめいのようなかなきりごえがきこえたきがした。

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