観測11ー2 『フタツの仕込み』
「――があぁぁぁぁ!! くっそ……な、なんなんだ一体……」
包帯男に弾き飛ばされた衝撃で、全身の骨が砕けているのを感じる。常人ならば即死していたその痛みはまさに表現不可能な拷問だった。
そんな傷を負っても尚、己が肉体は死という概念を否定するかのように修復されていく。
「早く体制を立て直さないと……」
肉体は元に戻ってはいるが、痛みで立ち上がることができそうになかった。
周囲を見れば、そこはあの建物に逃げ込む前にいた場所からもかけ離れたまだ把握しきれていない街の一角だった。
前を見やると、前方に立っていた建物の中心に大きな穴が空いており、何かがいくつもの建物をくりぬいた痕跡が残されていた。
「なんだ、あの怪物は……僕、どんだけ飛ばされたんだよ……」
こんなイカレた威力の攻撃を喰らいながらも、まだ生きている自分に嫌悪感を抱く。
「くそっ、どうしてこの世界は、こんなに前触れもなく狂ったことばっか、起こるんだ……」
代表曰く、この世界をマンガの題材にするとしたら、展開が全く読めない、一見破綻しているような物語しか作れないらしい。現実と創作の区別くらいつけてくれと思ってはいたが、今ならあの例えが間違いではないことをしみじみと理解する。
(剣がなくなってる……!! きっと飛ばされてる途中で落としたんだ……!!)
あれはアマルタから託された大切のもの。無事ではないにしても、形くらいは残っていてほしいが……この衝撃に耐えられたとは思えない。
「……手持ちにある武器はこのナイフ二本と弾切れの拳銃だけか」
持っててよかったと心の底から思った。冒険士として活動するなら、攻撃手段は一つだけでなく、いくつも用意しろと教えられたが、なるほど、こういった不測の事態に陥ることもあるのか。
「――なんだぁ? どっかから攻撃されたのかとおもったら、昼間のガキじゃねぇか」
「――え?」
右の方から心底驚いたといったような声が聞こえた。
「その声はたしか――ハオンさんと横にいるのは……アリナ……さん?」
「んだよ、こんな大事な時にテメェみてぇなまっしろヤロウに出くわすなんざ、オレもつくづくついてねェなァ……オエぇぇぇぇ!!」
「―――だ、大丈夫ですか!?」
そこにいたのは昼に突然、難癖をつけてきた二人組。ローブで全身を隠している男ハオンと相棒のアリナだった。
そしてハオンが昼間と同じく突然目の前で嘔吐した。
「アア、気にすんな。――で? 天下の冒険士様が、こんなに街をぶッ壊してどういう了見だ?」
「……い、いや、別にわざと壊したわけじゃないですよ」
「物をぶッ壊すヤツはみんな同じこというよな」
「だから違うんです。突然、わけの分からない怪力包帯男が襲い掛かってきたんですよ」
「あぁ……包帯男? なんだそりゃ? オレは知らねェぞ?」
「え? そりゃそうでしょ? あんなのと知り合いだったら、さすがに縁を切った方がいい。いきなり前触れなしに人をここまでぶっ飛ばしてくるやつなんですよ?」
僕はため息を吐きながら心からの本音をこぼす。
「んだよ、どさくさに紛れて、野良の冒涜師が暴れてんのか? ッたく、世の中壊すだけで、何も持ち合わせないクソばッかで困るぜ。だからこの世界はいつまで経ってもクソなんだ」
ハオンは苛立ちを全く隠すことなくうっとおしそうに舌打ちした。
「ん? 野良の冒涜師?」
僕は先ほどから目の前の男の発言にどこか違和感を覚えていた。
「さっきから『オレは知らねぇぞ』とか『どさくさに紛れて』ってどういうことですか? というか二人ともどうしてここに? ここは旧獣たちが暴れてて、民間人なら、冒険士が避難させてるはずですけど……?」
まるで当事者が口にするようなことばかり言っている。
「あ? オマエ、昼のときも言ったが、よく周りを見てたり、察しがいいヤツだな。……まあ、隠す気なんてさらさらないから別に構わんがな。――ほら、その答え、教えてやるから手を貸せ。起こすの手伝ってやるよ」
「は、はい……?」
先ほどから昼に出会ったときよりも柔らかな口調と軽いノリで話すから、調子が狂う。
一瞬、僕が人違いをしているのかと思ったが、さっき名前を聞いたとき否定されなかったから、大丈夫なはずだ。
というか、ハオンの隣にいるアリナがなぜかずっと僕を見つめているのが妙に気になる。
「すみません。――よいしょっと」
幸い痛みも無くなってきていたので、手を借りれば難なく起き上がることができた。
「いいッて気にするな。それよりほら、周り見てみろよ」
「え? は―――――?」
ハオンに促され、周囲を見渡すと、そこはまさに地獄絵図だった。
周囲にはおびただしい数の死体が横たわり、中には冒険士だったであろう『鍵』を身に着けたものまであった。
その傍らには、逃げ遅れたのであろう大勢の人々が怯えるように僕たちを見ていた。
一瞬、僕が受けた攻撃に巻き込まれたのかと思ったが、すぐさまあり得ないことに気づく。死体が転がっている場所が遠すぎるからだ。ならば、旧獣がやったのかと考えたが、あの旧獣はものを飛ばして攻撃していたからそれもあり得ない。じゃあ包帯マンがやったのかと考えれば、そもそもそれはここにいない人物だ。
「あんたらが……やったのか?」
僕は声を震わせながら、ゆっくりとハオンの方に顔を合わせた。
だから残る可能性なんて最初から一つだった。だけど、それが一番あり得ないと無意識的に除外していた。
だってそうだろ、あれだけ人を助けることの難しさを説いていたやつが、こんな虐殺を行うわけ――、
「やっぱオマエ、察しだけはいいんだな。モノを知らねぇクソガキだが、そこは評価してやる――よッ!!」
――ウケトメ、ハジケ。
「――ッ!!」
それは唐突に始まった。暗闇の夜空に何かが顕現し、そのまま僕に襲い掛かってきた。僕は咄嗟に予備のナイフ一本でそれを受け止め、弾き返した。
「ふんッ、腐ッても冒険士かよッ!!」
「ガッ!?!!」
だが、すかさず腹に向かって強烈な蹴りが放たれた。弾くのに力を込めたせいで無防備になった僕はなすすべもなくその一撃を喰らい、後ろに吹っ飛ばされる。
さすがにそのまま地面に放り出されるのは不味い。僕は受け身をとって、その勢いを利用し、低い姿勢になって相手の方を見た。
「オマエ、本当にまッさらなのかよ? それにしては明らかに身体能力が高いよな、まさかブラフ貼ってたのか?」
そこにあったのは目を疑うような光景だった。ハオンとアリナを守るように宙にいくつもの『剣』や『銃』が浮かんでいたのだ。
「グッ……!!」
さすがに一度ダメージを喰らったせいか、身体がふらつく。それでも傷があれば、この肉体は問答無用でそれを癒していく。
「そら、おねんねしてる場合か? またやるよ」
再び、剣や銃が宙でいくつも顕現され、こちらに向かってやってくる。
その量はおよそ――百。いやもっとあるかもしれない。
「う、うおおおおおおお!!」
僕はあれが神能によるものだと判断し、すぐさま目の前に大量の『泥』を放出する。
『泥』は剣や銃を飲み込み、消滅。百はあった武器が全て跡形もなく消滅した。
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