数日後:深夜:中嶋

『先生』ことしがない研究者の中嶋は、古閑から送られてきた二本の動画を繰り返し交互に再生する。

『隕ふる』の最終盤。超新星爆発の白い映像を背景に、ほのりと赤い光がゆらめき立つ。場所はプラネタリウム中央、保丹屋隕石の置かれたあたりだ。赤い光は大きくなったり小さくなったり、濃く薄くを繰り返す。リズムを持つかのように。歌うかのように。

 そして、『今夜の星空』上演中。客席のあちらこちらから淡い赤い光が現れる。てんでバラバラにゆっくりとそれらは明滅を繰り返す。まるで夜空の星々が大気にゆらめき瞬くように。

 しかし、中嶋の所持する隕石と研究室内の家庭用プラネタリウムではこの現象は見られなかった。他の隕石でも確認したいがそれらは貸し出し手続き中だ。そして赤い光が何であるかは、これまた光学分析の専門家に依頼済みで結果待ちだ。

 中嶋はSNSの無責任な考察を参考にしつつ、手持ちの情報を整理する。


■光るか否か

  保丹屋隕石→○

  教団隕石?→○

  岩石→? ※未確認

  中嶋所持(小惑星帯産)→?

  科学館所蔵、南米→? ※手続き中

  科学館所蔵、南極→? ※手続き中

■組み合わせ

  保丹屋隕石:隕ふる/最終盤

  教団隕石?:今日の星空

  岩石:隕ふる×、今日の星空×

  中嶋所持:隕石ふる×、今日の星空×

  科学館所蔵、南米→? ※手続き中

  科学館所蔵、南極→? ※手続き中

■光線

  赤外線? ※結果待ち


 当然『?』だらけである。仮説を立てては解せないと取り下げ、それでもその仮説が気になっている。三〇年以上も前、古閑と机を並べた大学時代、古閑のサークルの後輩だという青年の夢見るような言葉である――隕石、特に恒星間天体由来の隕石は宇宙空間を何千年も旅してくるんですよね。故郷を思い出したりしないのかと時々思うんです。

 中嶋は科学の徒である。非科学的な話で危ない橋は渡らないが、検討せずに棄却というほど堅くもない。しかもこれは興味深く、そしておそらく非常に。

「小惑星帯由来隕石の『故郷』は、っと」

 恒星は宇宙の時の流れの中では常に位置を変え続けている。小惑星帯の『故郷』では、星座は今の形をしていなかった。

 中嶋はニヤリと笑む。たしか古閑が原始太陽系の宇宙地図を開発中だったはずだ。完成がまだなら学生を大量投入してやればいい。開発加速と研究費節約を両立できる。

 安く上がってデマではなく、マスコミが好きそうな話題性。名前が売れてなんぼの世界だ――プラネタリウム保丹屋の名は共同研究者として載せれば十分だろう――非常に『ウマい』

 この仮説では『教団隕石?』が『今』出来たことになってしまうが、それは小惑星帯由来隕石の検証をしてからにする。

 中嶋はスマートフォンを引き寄せる。Win-Winを装って、古閑へと最初の打診を入れる。

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