第3話
――王宮での会話――
「ルノー様、リリナ様から快諾のお返事をいただきました。すべて計画通りでございます」
「よし、分かった」
ルノーは自身の部屋に備え付けられた窓から外の様子を見つめつつ、部下からもたらされた知らせを受け取った。
その様子は第一王子としての気品にあふれる所作ではあるものの、同時にどこかうれしさを隠せていない様子だった。
「ルノー様、なにやらうれしそうでございますね♪」
「なんだ、分かるのか?」
「えぇ。伊達にルノー様にお仕えしてはおりませんから」
その考えはお見通し、とでも言わんばかりの雰囲気で部下の男はそう言葉を発する。
しかしその後、彼はそのまま続けてルノーに対してこう質問を投げかけた。
「しかし、どうしてリリナ様にそこまでこだわられるのですか?」
「こだわる?」
「はい。正直なところ、私は彼女にあまり良い噂を聞かないものですから…」
やや言葉をつまらせながら、男はそう言葉を発する。
ルノーがリリナの事を特別に気にかけているということには気づいているものの、そこにどういった動機があるのかまでは察しきれていない様子だった。
「ルノー様がかなりお心を使われている方ですから、なにか理由があるのは分かっているのですが…」
「なんだ、一番大事なことに気づいていなかったのか?」
「は、はい???」
部下の男のリアクションを見て、どこか意外そうな表情を浮かべるルノー。
すると彼はそのまま、自分の素直な思いをそのまま口にし始める。
「僕が気になっているのはリリナなどではないとも。彼女にはエミリアという姉がいるだろう??僕が気になって仕方がないのはそちらの女性だとも」
「そ、そうだったのですか!?」
それまでエミリアの名前が出ていなかったためか、こちらもまた意外そうな表情を浮かべてみせる。
「し、しかしルノー様のふるまいはどこからどう見てもリリナ様に気があるようにしか見えませんでしたが…?」
「やれやれ…。そんな風に見られていたのか…」
「違うのですか?」
「あたりまえだ!」
それまであらぬ誤解を抱かれていたということを知り、どこかむずがゆそうな表情を浮かべるルノー。
「リリナは別に何とも思っていないから、普通に話ができるんだ。しかしエミリアが自分の近くにいることを想うとなんだか少し緊張してしまって、なかなか思うような会話を行うことができずだな…」
「……」
やや弱弱しい口調でそう言葉を発するルノー。
そんな彼の姿に、部下の男は心当たりがあった。
「(も、もしかして、食事会のたびに挨拶に来たエミリア様の事を避けていたのって、顔を合わせるのが恥ずかしかったから…?そんなかわいい理由だったの…??)」
リリナ自身がルノーからの思いを勘違いしてしまっている理由もそこにあるのだが、当の本人はそんなこと全く意識していなかった様子。
そこにあったのは、ただただエミリアへの思いを恥ずかしがった純粋な気持ちだけだった。
「しかし、今回はそうではない!必ずエミリアとの距離を縮めてみせるとも!だからこそ家族丸ごと招待を行い、自分に覚悟を決めることとしたのだ!これでもう逃げることができないからな!」
「そういうお考えだったのですね…」
ルノーの意図をようやく理解することができたものの、そうなると当然、この先の展望というものも気になる。
「では今度のお食事会、どこまで進められるおつもりなのですか?4人そろって参加されることは決まりかと思いますが…」
「当然だろう。これでもしもエミリアが欠けていたりしたら、残りの3人と話をすることなど何もない。必ず来てもらわなければ」
「それで、その後はどうされるのですか?これは私の予想ですが、きっとリリナ様はルノー様との関係を期待していると思いますよ?これまでのお二人の関係の流れから見ると…」
「知るかそんなもの。僕の目に映っているのはエミリアだけで、リリナになど興味はない。興味のない相手との関係を深めることはしない。当然だろう?」
「確かにそうですが…」
それでリリナが潔く引き下がるともなかなか思えるものではない。
男もリリナの性格というものを重々理解していたのだろう。
「何度も言うが、家族をまとめて招待したのはエミリアとの関係に決着をつけるためで、そこに妥協など一切ない!僕は心からエミリアが自分の妃になってくれることを望んでいるのだ!」
「ご両親は納得してくれること、かと思いますが…(いや、いろいろと問題アリの両親だと聞いているし、なにかまずいことをやってくるかもしれないな…。何事もなく終わると良いのだが…)」
すでにルノーがエミリアを選ぶと決めているのだから、外野がそれ以上どうこういうものではない。
あとはただひとつ、自分は選ばれなかったのだという現実をリリナが受け入れられるかどうかだけなのだから。
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