第2話
――リリナ視点――
お姉様の存在は昔から腹立たしかった。
どういうわけかお姉様の方が私よりも、男性からモテるのだ。
私のほうが見た目もかわいいし、性格だって何倍も魅力的。
どう考えたって負ける要素なんて何もないのに、それでも結果を見ればお姉様の方に多くの声が集まっている。
私は昔から、それが嫌で嫌で仕方がなかった。
だからこそ私は、お姉様の持っている物を全部奪ってやることに決めた。
別にそれくらい普通でしょう?だって自分の方が悪いんだから、その罰を与えてあげているだけだもの。
「これでお姉様は当日食事会には行かないでしょうね。あんなに言ったんだから、私の優勢に変わりはないわ…♪」
私は3人の元から離れて自室に戻ると、小さな声でそう思いをつぶやいた。
というのも、今回ルノー様から頂いた招待状には、なにやら意味深なことが書かれていたのだ。
招待者は私たち家族の全員だったけれど、私とお姉様の誘い文句だけ少し変わっていた。
『これからともに王宮で暮らすものとして、いろいろな話をしたい。来てくれることを楽しみにしている』
この誘い文句、私とお姉様の名前のちょうど真ん中あたりに書かれており、どちらに向けて書かれたものなのかがわかりにくかった。
でも文章だけを見れば、これはもう完全にルノー様とパートナーとなることが間違いないようなものであり、こんなチャンスは二度とないことも明らか。
ルノー様は私たち姉妹のどちらかの事を気に入ってくれていることは間違いなく、そうでもなければこんな文章を添える意味がない。
「問題は、それがどちらなのかということだけれど…」
でも正直、私はルノー様が気に入っている相手を自分に違いないと思っている。
私はこれまで何度もルノー様のもとに招待されては、丁寧にあいさつを行ってきた。
お互いのプライベートに踏み込む話をしたのだって一度や二度ではない。
その度にルノー様はいいリアクションを見せてくれていて、とてもまんざらでもないような雰囲気だった。
その一方、お姉様は確かに私たちがルノー様とつながるきっかけを作ったは作ったけれど、それ以上に深い関係を何も築けていない。
2人で話をしているところも見たことがないし、むしろお姉様がルノー様のもとに挨拶に向かって行ったら、なにやらお姉様の事を避けるような動きを見せていたこともあった。
これは私の見間違いなんかじゃなく、完全な事実。
「(つまりルノー様は、そこまでお姉様の事が気になっているわけではない、ということになるわよね?)」
するとそれと同時に、もうひとつ新たな可能性が湧き出てくる。
「(なら、考えられる可能性は一つ…。ルノー様はもともと私の方が気になっていて、私との関係を築くためにお姉様に先に声をかけた、というもの)」
そう考えれば、すべてのつじつまはあう!
ルノー様は私とかなりフランクに接してくださっている一方、当のお姉様とはあまり良い関係を築けてはいない様子。
お姉様の方から話に向かっても、結局なにもできないまま終わっているだけ。
その行動の裏にあった心理が、私に対するものであったなら…。
「完全にルノー様は、私の方が気になっているということよね…。だからこそこの招待文には、こんな悩殺的な言葉を添えられたのね…♪」
すべての点と点が線でつながっていき、私の中で完成されていく。
これほど痛快なものはなかった。
「(残念でしたねお姉様、もうルノー様は完全に私の事しか見ていないのですよ?今まで私にいじめられてきたことをここで反撃したかったのかもしれませんが、当のルノー様はお姉様の事ではなく、私の事が好きだったのですよ。ざまぁないですわね♪)」
大方、自分にはルノー様がついているから大丈夫だとでも思っていたのでしょう。
だから私がお母様とお父様を味方につけて、毎日のように攻撃的な言葉をかけ続けてきても、平気そうな表情でいられたのでしょうね。
でも、もうその心の支えもなくなるのですよ?
お姉様が頼りにしていたルノー様は私に奪われてしまうのですよ?
どうですか?悲しいですか???
「(クスクスクス…。なんだか考えているだけで楽しくなってきますわね…。お姉様は今度の食事会、自分が参加しなくともなんの進展もないと確信しているのでしょうが、そこでは私とルノー様が婚約関係を正式に成立させるのですよ?どうですか、悔しいですか??切ないですか????)」
もう私のゴールインは決まったもの。
あとはそのゴールの仕方にこだわるだけ。
「どう婚約を報告したら一番悔しがってくれるか…。普通に報告してもつまらないわよね…」
そこが一番楽しみだけれど、一旦それは後の楽しみということにしておく。
だって、もう決まったことなのだから。
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