第4話
「エミリア、ルノー様からのお誘いだから一応お前も連れていくが、一切何も話すんじゃないぞ?」
「お姉様が口を開いても、周りの迷惑になるだけですからね。お父様はお姉様のためを思ってお命じになられているのですよ?その優しさを素直に受け止めるべきだと思いますけど?」
ルノー様の元を訪れるのがいよいよ明日に迫った日の事、二人は非常に険しい口調で私にそう言葉を発する。
どうあっても、ルノー様の私への印象を悪いものにしたくて仕方がない様子…。
「ルノー様に挨拶も返すんじゃないぞ?そんなものルノー様は心の中では望まれていないんだからな」
「お姉様はおまけで呼ばれただけなのですから、その点をきちんと理解しないといけませんよ?どうか私とルノー様の恋路を邪魔しないでくださいませ」
リリナはもう完全に自分が主役であることを信じて疑っていない様子。
恋は盲目とはよく聞くけれど、ここまで盲目になる人に私は心当たりがない。
「分かりました。私は言われたとおりにいたします」
「それでいい。連れて行ってやるだけありがたいと思ってもらわないといけないのだからな」
「お父様の言う通りですね。そもそも私たちにお姉様を連れていくような義理はなにも…」
「あら、みんな早いのね。もう準備を終えたの?」
するとその時、それまで姿を消していたお母様が私たちの前に姿を現した。
…これまでなにをしていたのか、と質問しようとしそうになった二人だったけれど、そのお母様の格好を見てすぐにその内容を察した様子。
「お母様、その派手な衣装は一体なんですか…?」
「俺も見たことがない服だな…。いつの間に準備していたんだ?」
やや驚きの表情を浮かべる二人に対し、お母様は非常に得意げな表情を見せながらこう言葉を返した。
「だって、明日はルノー様と一緒にダンスができるかもしれないのでしょう?私の体に手をかけてくださるかもしれないのだから、少しくらいこのような衣装を着てルノー様に喜んでいただかないとね…♪」
それはつまり、自分もまたリリナに負けず劣らずルノー様との関係を深めたいという下心があることを明確に物語っていた。
…それがどれだけ痛々しい事かも、本人は全く理解していない様子…。
「リリナばかり気合が入っているようだけれど、招待状には私の名前もきちんとあったのだからね?ならこうしてその気持ちにこたえるのが女性としての当たり前の心がけでしょう?」
「……」
「あら、なにか言いたげなことがありそうねエミリア」
私は何も言っていないのに、勝手につっかかってくるお母様。
「わ、私は何も言って…」
「あなたの事はかわいそうだと思っているけれど、まぁ自業自得でしょう?だって今までさんざんリリナの事をいじめてきて、私たち家族に迷惑をかけ続けてきたんだもの。これでルノー様と仲良くなりたいと考える方が失礼な話でしょう?」
いじめ続けてきたのはそっちの方でしょうに、一体どういう神経をしているのか…。
「可愛さだって性格だって完全にリリナの方が上だから嫉妬したくなるのは分かるけれど、それもほどほどにしておかないとダメよ?これ以上余計な思いを抱き始めたりしたらそれこそ本当に終わりなんだからね?」
口調こそ優しいけれど、その内容は完全に私に対する嫌味のみ。
元からこういう性格だから、仕方はないのだろうけれど…。
「だめですよお母様、お姉様が私に嫉妬しないようにするなんて無理な話です。今までも私の方が散々周囲からかわいいかわいいと言われてきたのに、今度は私がルノー様と結ばれることになるのですよ?そんな現実を突きつけられて、何とも思う名という方が無理な話ではありませんか?♪」
「まぁ」
「なにより、私はお姉様から嫉妬していただいた方が気持ちがいいので、このままでも構いませんもの♪」
「さすがリリナ、余裕だな。エミリアにもこのくらいの度胸とオーラがあれば愛せたのになぁ…」
3人は完全に浮かれてしまっているのか、どこから来るのか全く分からない自信に支配されてしまっている様子。
…私は心の中に妙な思いを抱きつつ、なぜだか3人の様子を俯瞰で見ることができていた。
「(明日の食事会、なにか予想とは違うことが起こりそう…。それがなにかは全く分からないけれど、ルノー様が心の中に思っていることは私たちの想像と全く違っていそうな気がする…)」
ルノー様は自分の事を気に入っているに違いないと確信しているリリナと、同じような思いを抱いているお母様。
その一方で私の事はただのおまけだと言われているけれど、それなら果たして例の手紙にあんなことをわざわざ書くだろうか…?
「(…ルノー様、明日はいったいどのような食事会になるのでしょう…)」
その思いを心の中に抱きながら、いよいよ私たちはその当日を迎えることになるのだった。
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