第二幕 靴を落とした少女 2:灰かぶり姫

彼女の母親らしき人がこう叫んだ。「シンデレラ!!!!」シン……………………………デレ…………ラ??????????

………………………………………


私は、まさかと思い呆然と立ち尽くした。待って。今の女性、シンデレラって言った??え?待って待って。頭の処理が追い付かない。あの彼女がシンデレラということは、ここは物語の中ってこと??いやでも、ありえない。だって、こんなことあるはずがない。


そこで私はハッとした。


そういえば私、どうしてこの世界に来たんだっけ。思い返すと、私がボタンを拾ったその手を、本にかざしたときだった。そして、本から溢れ出る光に包まれて気が付いたらここにいた。


確かあの本の題名「童話集」だった気がする。と、いうことは、この現状から推測するに、ここはあの本の中ってことになる。でも私は、この事実をどうも受け入れることができそうもない。だって本当にあり得ない話だから。でも、今は悩んでいる暇はない。とにかく、ことの成り行きを見てみよう。


「シンデレラ!!!!水やりは終わったの?!終わったならさっさと部屋に戻って頂戴!!あんたみたいな小汚い娘、誰かに見られたらどうするの?!まだ、やることは残っているのよ!!!!」そういって、彼女の持っていたジョウロを取り上げ、母親は、彼女を家の中に連れ去ってしまった。


これからどうしよう。この事実が本当のことだとしたら、私は本の中に閉じ込められていることにもなる。どうにかして、現実に戻らないと。まずは、家の中に戻ってしまった、彼女を追ってみよう。何かわかるかもしれない。


そう思って私は、花壇から大きな家の前までスルスルと歩いていき、止まった。


一応人の家の中に入るわけだし、一言いったほうがいいよね。<おじゃまします>


そして、私は固くてどっしりとした大きなドアをスルリと通り抜けた。彼女はどこだろう。探して見ると彼女は、家の中央にある一室で、暖炉のそばを掃除していた。そして、その部屋には、彼女のほかに2人の女性がいた。


ここが本当にシンデレラの話の中だとすると、あれは継母の2人の娘だろう。私は、シンデレラの話をうるおぼえながらに知っていた。あの、かの有名なねずみーランドの影響かもしれないが。


娘2人は、彼女にこう罵っていた。娘1(姉)「あんたは、ぼろ雑巾みたいな恰好で、チョロチョロとこの家を這うネズミみたいなもんだから、この豆も這って食べたらどうかしら??」娘2(妹)「そうよ。そうよ。きっとあなたにはお似合いだわ笑」と言いながら娘1は豆をまき散らし、娘2は彼女のことを笑っていた。彼女が何も言わないことをいいことに、娘1は彼女の頭を掴んで、床に擦り付けた。しかし、彼女は四つん這いになりながらも何も言葉を発さず、その言動に耐えていた。そのとき、彼女にとっての継母・娘2人にとっての実の母親がこの部屋の扉を開けた。継母「何をやっているのですか。まだ、シンデレラのやることは残っていますよ。」娘1「お母様、わたくしたちは今、この小汚い女に教養を教えていたのです。」娘2「そうです。お母様。姉さまは、この女のために一生懸命、教養をお教えしていたのですよ。」継母「そうなの。それならしょうがないわね。続けて頂戴。」


とにやりと笑いながら、継母はどこかへ行ってしまった。それからというもの、娘2人の気が済むまでその罵りは続いた。彼女がこの間に発した言葉といえば”ごめんなさい”だけ。最初は無言で耐えていた彼女も、娘2人の罵声と罵倒が激しくなるたびに、”ごめんなさい”の言葉が聞こえるようになった。そして、彼女は、繰り返し、何度も、何度も、”ごめんなさい”の言葉を口にし、涙を流しながらその罵りに耐え続けた。そして、娘2人の気が済んで、彼女が罵りから解放されたあとも、彼女は継母の指示に従い、部屋の掃除、洗濯、靴磨きなど、休む暇もなく、一晩中働かされた。暗くなったころ、くたくたになった彼女は、暖炉の前で寝こけていた。灰を被りながら。それを見つけた継母がこう言った。継母「こんなところで寝ないで頂戴。床が汚れるでしょ。」そう言われて彼女は、ぼろぼろになった屋根裏部屋に連れていかれた。


私はそのころ、何か彼女を助けることはできないかと色々と模索していた。豆がまき散らされて、食べなさいと彼女が罵られているときは、娘1を殴ってみたり、娘2を羽交い絞めにしてみたり。それができないとわかると次に、豆をどうにか片付けられないのかと思って拾ってみたり、豆を1か所に集められたりしないかと風を吹かせてみたり。


たくさんの試行錯誤を繰り返していたのだが、やっぱりこの世界のものには一切触れられず、すり抜けてしまう。結局私は、その一部始終を見守ることしかできなかった。。。


…………………………………………………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る