第二幕 靴を落とした少女 3:ボタンの秘密
結局私は、その一部始終を見守ることしかできなかった。。。
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そのあと彼女を追って、私は今、ボロボロな屋根裏部屋にいる。彼女は屋根裏部屋に連れていかれた後、「この部屋で寝なさい。」と継母にぴしゃりと言われ、扉をバタンと閉められてしまった。彼女は、その場に座り込んだ後、そばにあるボロボロになったベットに頭を伏せてしくしくと泣いた。「なぜ、なぜ私がこんな目に合わなくてはいけないのですか。父上、母上、私はつらいです。どうすれば、ここから解放されるのですか。」私は、何とかして彼女を慰めてあげたかった。私は、何かいい方法はないかな、何かできることはないかな、と透明人間になった体で、彼女の部屋の中をうろちょろうろちょろと歩きまわった。すると、部屋の隅でキラリと何かが光った。何だろう。とその光った場所に近づいてみると、彼女の裁縫道具が置いてあった。そして私は、それを目にしたとき、驚きのあまり身を固めた。なんと、その裁縫道具の中には、あの記憶の中の少年がくれたボタンがあったのだ。な、な、なんで、このボタンがこんなところにあるの?!それも、彼女の裁縫道具の中に!私は、心臓の音が耳に響くくらいドキマギしていた。そして、部屋のかすかな明かりに照らされて、にぶく、ゆらゆらと光るボタンに目を奪われ、吸い寄せられるかのようにゆっくりとボタンをなでた。そのとき、硬くて冷たい感触、そしてボタンのボコボコとした凹凸を感じた。そう。私は、そのボタンに触れられたのだ。
そして、ボタンに触れられたことに目を丸くしている私の背後から、突如として、小刻みに震えた不安気な声が聞こえた。「あ、あなたは誰??」私は息をのんで、言葉にならない言葉を発した。
「え。。。。。。」
内心、私はとても焦っていた。え。。。。これは私に言っているの??でも私のことは見えないはずじゃ。。。もしかして、私のことが見えているの?でも、まさか、そんな。でも、見えていたとして、じゃあ、あのとき彼女は、見えないふりをしていたのか?いや、それもあり得ない。だって花壇の前にいた彼女の反応からしてその可能性は低い。じゃあ、なんでなの?今さっきボタンに触れられたことにすら驚いてるのに。
私は、その焦りを悟られないように落ち着きを払った声でこう言った。
「あなたは、私が見えているの?」
彼女は言った。
「うん。」
と彼女はちょっと怯えていた。私は、彼女を安心させるためにも「怪しいものじゃないよ。大丈夫だよ。」
と、明るく言った。
すると彼女は、とても安堵した表情を浮かべた。そして、彼女は突拍子もなく
「不思議な格好をしているのね。」と呟いてから悲しそうに目を伏せた。
そう彼女に言われて私は、自分の体を見た。するとそこには、本の中に入る前の部屋着姿の私がいた。私は、隅々まで自分の体を確かめるように見て触った。
体が触れる。手に持っているボタンの感触もある。なにより、透明に透けてない。わ、私、人間に戻った?!
私は、またもや目を丸くし固まった。
彼女はその目を丸くし固まった私をみて困ったように少しだけクスリと笑った。そのときの彼女は、私が姿を現したことに驚いたのか、いつの間にか涙は、止まっていた。
そして私は、この埃だらけの屋根裏部屋に姿を現したせいか、なんだか鼻がムズムズし出した。次の瞬間、私はくしゃみをした。
すると、彼女は動揺した掠れた声で「どこ、、、行ったのですか?」とぼそりとつぶやいた。このとき私は、なんと透明人間に戻っていた。「私の声聞こえている?」と私が何度も彼女に声をかけても彼女からの返答はなかった。私は、なぜ、また透明人間になってしまったのか慎重に考えていた。そして、その時々を思い出していたら、何点か気づくことがあった。ボタンを撫でたら、人間に戻ったこと。くしゃみをしたら、透明人間になったこと。この2つが関係していると私は考えた。
ボタンを撫でたら人間に戻ることは分かったけど、どうしてくしゃみをしたら透明人間になったのだろう。くしゃみをすれば透明人間になるのだろうか。いや、そんな不意に起きることの要素はないだろう。じゃあ。なんだ?何が、それを引き起こしているんだ?私はそこでもう一度くしゃみをしたときの姿勢に戻した。すると、手にボタンを持ったまま口を覆い、くしゃみをしていたことが分かった。
私は、そうか!!とひらめいた。
そうだったのか。ボタンにくしゃみの息がかかっていたんだ!!そうすると、透明人間になるためには、ボタンに息を吹きかければいいのか?!
とようやく私は、人間から透明人間に、透明人間から人間に戻る方法がわかったのだった。そして、継母たちがこの部屋から出ていくと、私は、さっき予想したとおりにボタンを撫でた。すると、みるみるうちに透明人間から人間の姿へ戻り、姿を現した。
彼女は、
「まだ、、、、、、、、、いたんだね」とこぼした。私は、彼女に「ちょっと試したいことがあるの。もう一度消えてみるから、私が、消えたら手をあげてみて。」と言い、ボタンに息を軽く吹きかけた。すると、私は、一瞬にして透明になり、彼女はゆっくりと手を挙げた。私は消えたことを確認すると、また優しくボタンを撫でた。
彼女は、驚いた様子は見せたものの何かを懐かしむようなそんな姿だった。
と継母たちに叱られないように静かに喜んでいた。そして、彼女は私にこう言った。
「そういえば、自己紹介、、、、、、。」「私はりう。」「あなたは?」「私はエラよ。」「よろしく。」私が手を差し伸べると彼女は、オズオズと右手を差し出した。私は、その右手をぎゅっと固く握った。
とても似ているんだ。とても。昔の自分に。何もかも諦めていた昔の自分に。だから、救ってあげたかった。これからの、彼女との道のりは長くなりそうだとそんな気がした。
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